上腕骨のアライメント評価
上腕骨前方偏位の臨床評価
上腕骨頭は通常、肩峰に対して上腕骨頭の直径が前方偏位1/3以内に位置する¹⁾²⁾とされています(図1)。
つまり、肩峰に対して、上腕骨頭の直径が1/3以上前方に位置する場合、前方偏位と判断されます。
図1 上腕骨前方偏位のアライメント評価
臨床では、肩峰の前方と後方、上腕骨の前方と後方をそれぞれ把持し、その位置関係を触診・観察することで評価することができます。
上腕骨上方偏位のアライメント評価
肩甲上腕関節の狭小化を示す指標に、肩峰骨頭間距離(Acromiohumeral Interval:AHI)があります(図2)。
肩峰上腕骨間距離(AHI)が6〜7mm以下では、腱板断裂が疑われる³⁾⁴⁾とされています。
図2 肩峰上腕骨間距離(AHI)
3)より画像引用一部改変
実際の臨床で、肩峰骨頭間距離を評価することで困難であるため、レントゲン画像にて確認できる指標の一つとして覚えおきましょう。
肩甲骨のアライメント評価
【前額面のアライメント⁵⁾⁶⁾(図3)】
前額面(背面)では、肩甲骨内側縁は脊柱と平行に走行しかつ胸椎棘突起との距離が成人男性では約7cm、成人女性では5~6cmあります。また肩甲骨は第2〜7肋骨上に位置します。
図3 前額面における肩甲骨アライメント
臨床では、肩甲骨内側縁や棘突起の触診で評価します。胸椎棘突起との距離は、正常ではおよそ4横指となります。事前に自身の指幅を測定しておくことで目安とすることができます。
【矢状面のアライメント⁶⁾(図15)】
矢状面では、肩甲骨は10°前傾します。
図4 矢状面における肩甲骨アライメント
【水平面のアライメント⁶⁾⁷⁾(図5)】
水平面では、肩甲骨は前額面より30〜40°(約35°)前方に位置します。
図5 水平面における肩甲骨アライメント
肘関節のアライメント評価
肘関節のアライメントで、臨床で評価する機会が多い指標には、肘角(運搬角、キャリングアングル)とHüter線およびHüter三角が挙げられます。
肘角とは、上腕長軸と前腕長軸とがなす角度を言います(図6)。正常では10〜15°外反しており、これを生理的外反角*と呼びます。しばしば運搬角(キャリングアングル)と同義とされます。肘の外反角度(肘角)15°以上では、外反肘⁸⁾*と呼ばれます。
✳︎生理的外反角や外反肘の定義は諸説あります。
図6 肘角(運搬角、キャリングアングル)
Hüter線とは、肘関節伸展位にて上腕骨外側上顆、上腕骨内側上顆、肘頭を結ぶ一直線のことを言います(図7)。
Hüter三角とは、肘関節屈曲位にて上腕骨外側上顆、上腕骨内側上顆、肘頭を結ぶ三角形を言います(図7)。正常では、[上腕骨外側上顆〜肘頭]≒[上腕骨内側上顆〜肘頭]の二等辺三角形を保ちます。[上腕骨内側上顆〜肘頭]の距離が短い場合は、外反傾向にあります。
図7 Hüter線およびHüter三角
【肘関節屈曲・伸展運動時の肘頭の軌道】
肘関節屈曲・伸展運動時に肘頭の軌道を後方より観察します。正常では、肘関節伸展位でHüter線は一直線上となり、屈曲・伸展動作中はHüter三角は二等辺三角形を保ちます。
運動中に肘頭が内側(内側上顆側)に変位する場合は、肘関節外反が増強していると考えられます。
また肘関節は、上肢下垂位では肘頭が後方に位置する⁶⁾とされています(図8)。
図8 前額面(背面)における肘関節アライメント
NEXT 姿勢・アライメントの基準まとめ④
参考・引用文献一覧
1)赤坂清和. マッスルインバランスに対する評価と理学療法. 理学療法科学, 2007, 22.3: 311-317.
2)Gong, Wontae, Ilsub Jun, and Yoorim Choi. "An analysis of the correlation between humeral head anterior glide posture and elbow joint angle, forward head posture and glenohumeral joint range of motion." Journal of Physical Therapy Science 25.4 (2013): 489-491.
3)宮沢知修; 松井健郎; 小川清久. 肩峰骨頭間距離の臨床的意義. 肩関節, 1989, 13.2: 247-251.
4)井上宜充, et al. 肩関節周囲炎後例における肩峰骨頭間距離と肩関節可動域制限の関連についての検討―関節裂隙距離の定量化と機能的意義―. 理学療法学, 2010, 37.3: 174-177.
5)竹井仁:姿勢の教科書.株式会社ナツメ社,2015.
6)竹井仁:姿勢の教科書 上肢・下肢編.株式会社ナツメ社,2018.
7)NEUMANN, Donald A.: 筋骨格系のキネシオロジー 原著第3版. 医歯薬出版, 2018.
8)工藤慎太郎:運動機能障害の「なぜ?」がわかる評価戦略.株式会社医学書院,2017.