(外部)膝関節内反モーメント(KAM)
膝OA患者の動作解析時に多用されているメカニカルストレスの代表値の一つに、(外部)膝関節内反モーメント(knee adduction moment:以下KAM)¹⁾が挙げられます(図1)。
図1 KAM
(Ground reaction force:床反力、Moment arm:床反力の垂線と膝関節中心の距離)
2))より画像引用
関節モーメントには、関節を回転させようとする力が生み出す外部モーメントと、それに拮抗しようとする筋の収縮力や筋膜、靱帯の粘弾性などが生み出す内部モーメントがある³⁾が、一般にはこの内部モーメントを関節モーメントと表示していることが多い⁴⁾とされています。
(外部)膝関節内反モーメント⁴⁾とは、外力として膝関節を内反させる力のモーメントであり、床反力の大きさとモーメントアームである膝関節中心点から床反力作用線に降ろした垂線の長さが主に影響します。
荷重時の関節モーメントは、床反力ベクトルと関節中心の位置関係を見ることで推定することができる⁵⁾とされています。
臨床的には関節モーメントは、「現在考慮する関節から上部にある質量中心位置が、水平面上その関節からどの程度離れているか」を評価する⁶⁾とされています。
KAMは、膝関節内側コンパートメントに加わる負荷と強い関連を示す⁷⁾とされています。また、内反アライメントではKAMが増大し、膝関節周囲の筋肉の共収縮や(内部)膝関節外反モーメントが大きいと、さらに膝関節内側へ圧縮負荷が加わる可能性⁸⁾が挙げられています(図2)。
図2 ニュートラルアライメント(A)と内反アライメント(B)のKAMの違い
8)より画像引用
6年後のフォローアップを行った調査では、KAMが1%増加すると膝OAの進行リスクは6.46倍に増加した⁹⁾と報告され、単純X線画像上での膝OAの重症度の予測因子としても挙げられています¹⁾。KAMはK-L分類との相関を認めています⁹⁾。
歩行におけるKAM⁸⁾は通常、立脚期に2つのピークを示します(図3)。1つ目の大きなピークは歩行の荷重応答期(歩行周期の0~12%)に生じ、2つ目の小さなピークは立脚後期(歩行周期の50~62%)に生じます。KAMは歩行の遊脚期(歩行周期の62%~100%)には無視できるほど小さくなるとされています。
図3 歩行時のKAM
8)より画像引用
歩行におけるKAMピーク値は非OAに比べて内側型膝関節患者で大きく、中等度のOA患者よりも重度のOA患者で大きい¹⁰⁾ことが示唆されています。
KAMを減らす歩行戦略¹¹⁾として、歩行速度の低下、(荷重側への)体幹の揺れの増加、足部の進行角度の変更が挙げられています。しかし、歩行速度の低下は日常生活に支障をきたす可能性があり、体幹の揺れの増加(デュシェンヌ様歩行)は腰痛や不均衡を誘発するとされています。
一方、足部の進行角度を変えることは、最小限の不快感でKAMを軽減します。
つま先を内側へ向けるtoe-in歩行は、KAMの最初のピークを減らす¹¹⁾¹²⁾と報告されています(図4、5)。
図4 トレッドミル上での通常歩行(左)とtoe-in歩行(右)
12)より画像引用
図5 toe-in歩行によるKAMの減少
11)より画像引用
変形性膝関節症患者は、6週間のtoe-in歩行(1日少なくとも10分間)を再訓練した結果、KAMの最初のピークが約20%減少し、痛みの軽減と機能改善(VASおよびWOMAC)を認め、6週間のトレーニング期間終了後1 か月後も維持されていた¹³⁾と報告されています。
図6 toe-in歩行練習後のKAM減少
(Base line:通常歩行(トレーニング前)、Post-Training:6週間のトレーニング後、1-Month Follow up:トレーニング終了から1ヶ月後)
13)より画像引用
高位脛骨骨切り術などの外科的治療によりKAMは33%減少する¹⁴⁾と報告があり、toe-in歩行練習によるKAMの減少はこれに匹敵する¹¹⁾と述べられています。
一方、17文献をまとめたシステマティックレビュー(2022)¹⁵⁾では、toe-inはKAMの第2ピーク(立脚後期)を増大させると報告されています。
また、24文献をまとめたシステマティックレビュー(2011)¹⁶⁾では、toe-outは立脚後期のKAMを減少させるとの報告が多いとされています。