大内転筋をひとつの筋肉として捉えていませんか?
答えから先に言いますと、
腱性部と筋性部の2つに分けられ、起始停止および作用が異なります。
作用の違いとしては、
筋性部は股関節屈曲に作用すること
腱性部は股関節伸展に作用すること
が挙げられます。
では、大内転筋の解剖学と運動学、そしてその役割についてまとめていきます。
大内転筋の解剖学
大内転筋の解剖図
起始 |
筋性部:恥骨下枝 腱性部:坐骨枝、坐骨結節 |
停止 |
筋性部:大腿骨粗線内側唇 |
支配神経 |
筋性部:閉鎖神経(L2-L4) |
作用 |
筋性部:股関節内転、屈曲、外旋 |
大内転筋の起始部は、恥骨下枝(筋性部)から坐骨結節(腱性部)まで前後に広く位置しています。
大内転筋の起始部(後内方より観察)
大内転筋の停止部は、筋性部と腱性部によって異なります。筋性部はより近位の大腿骨粗線内側唇へ、腱性部はより遠位の大内転筋結節へ停止します。
大内転筋の停止部(内方より観察)
大内転筋の運動学
大内転筋全体における股関節への作用1)
大内転筋は、すべての筋の中で股関節内転運動に最も貢献しています(全体の30.2%)。また、股関節伸展運動において、大殿筋に次ぎ2番目に大きく働きます(全体の23.0%)。
大内転筋腱性部の肢位の違いによる股関節への作用の変化2)
前額面 | 矢状面 | 水平面 | |
解剖学的肢位 |
内転 | 伸展 | 外旋 |
股関節屈曲位 |
内転 | 伸展 | 内旋 |
大内転筋の腱性部は股関節が屈曲するにつれて外旋→内旋へ作用が変化していきます。
ただし、大内転筋は股関節内外旋への貢献度は低いです。
大内転筋の役割
大内転筋は股関節内転筋群の中で最大の筋肉であり、全体の60%の横断面積を占めます3)。
股関節外転筋と拮抗する筋活動や股関節伸筋群との協調的な筋活動によって、股関節の安定性に寄与します。
歩行時には、荷重応答期に大殿筋下部と同様に働きます。
昇降動作時では、股関節伸展運動をする単脚支持期に働きます。
歩行時における大内転筋の筋活動4)
いかがでしょうか?
今回は、大内転筋の筋性部と腱性部の作用の違いと、主な役割についてご紹介しました。
基礎知識の整理にお役立てください。
参考・引用文献
1)市橋則明:身体運動学 関節の制御機構と筋機能.株式会社メディカルビュー社,2017.
2)林典雄:セラピストのための機能解剖学的ストレッチング,株式会社メディカルビュー社,2018.
3)MOCHIZUKI, Tomoyuki, et al. Pes anserinus: layered supportive structure on the medial side of the knee. Clinical Anatomy: The Official Journal of the American Association of Clinical Anatomists and the British Association of Clinical Anatomists, 2004, 17.1: 50-54.
4)月城慶一ら:観察による歩行分析 第1版.株式会社医学書院,2013.
5)坂井建雄,他監訳:プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論/運動器系 第3版,株式会社医学書院,2017.
6)熊谷匡晃:股関節拘縮の評価と運動療法 第1版.株式会社運動と医学の出版社,2019.
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