脳画像を読む力がつくと臨床が変わる ~すぐに実践できる脳画像診断のコツ~ 初級編

自己紹介

はじめまして、「やまもと」と申します。この度、ルイ(Louis)さんが運営している『forPT』さんのブログでゲストライターをさせていただくこととなりました。よろしくお願いします。簡単に自己紹介しますね。

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最近は、写真・動画の作成にも興味を持ち、
カメラ・スマホ片手に格闘中(笑)

また、学生さんや若手の療法士さん向けに、SNSでマイペースに情報発信もしています。

5月末に開始したインスタは、おかげさまで9月末の時点で950名ほどの方にフォローをしていただきました。

自己紹介は、この辺にしておきまして、そろそろ、本題に進みましょう。

脳画像をみるにはコツがある

理学療法士として働き始めて数年が経ちましたが、脳卒中後の対象者さんにリハビリテーションを提供していて、介入結果が出る人・でない人がはっきりしていました。

今、振り返ると、脳の損傷程度や脳が回復していく段階(脳の可塑性)で、勝手に良くなっていった症例とそうでなかった症例があるのだと感じています。

脳卒中リハを実践するために、

脳画像の診断が行えると、
”どのような症状が起こるのか”
”どのような介入をすべきなのか”
”どの程度の入院期間が必要なのか”


を予測することが可能になります。

※その他、年齢、既往歴、家族構成など脳の障害以外にも影響因子はありますので、脳画像だけでなく、総合した判断は必要です。

病巣部位と予後予測

前田の発表している文献には、病巣部位からある程度の予測はできると述べられています。

予後予測

予後予測2

画像:前田真治の文献より”表2病巣部位と予後予測”をもとに作成
※脳卒中の予後予測に関してはこちらの記事も参考にしてみてください。

実際の臨床では、同じ疾患でも、出現する症状や予後の違いなどが生じることってありませんか?

同じ視床出血で考えてみると、

上下肢に運動麻痺が強く残る症例がいれば、
上肢のみに運動麻痺が残る症例もいる。

視床出血だから感覚障害が起きると思っていたら、
小脳疾患のように失調症状が出る症例もいる。

家庭内の動作が自立し社会復帰する症例がいれば、
家庭内動作の大部分に介助を残す症例もいる。

診断名が同じでも出る症状や予後は変わります。
その判断材料になるのが、脳画像の診断なのです。


とっつきにくい脳画像について、私自身が作成したスライドの画像や文献・論文などを踏まえて、わかりやすく伝えていきたいと思います


今回は、予後予測や、介入内容は置いておいて、画像診断のコツに絞った内容を初心者向けにお伝えします。

CTとMRIの特徴を知る

まずは、CTと MRIの特徴をおさらいしましょう。

最近、コロナウイルスによる肺炎検査で活躍しているCT検査。肺炎症状のある方は胸部CTの検査を行いますね。

健康診断での脳ドックや脳卒中など脳の画像診断を行う場合にもCT検査を行いますよね。

厚生労働省の調べたデータを見てみると、MRIの設置に比べて、CTの設置台数が多いことがわかります。

CT・MRI設置台数の図

引用:厚生労働省 資料

CTとMRI検査には、それぞれ特徴があるので、復習してみましょう。

 CTについて

図1

 MRIについて

図2

メリットとデメリットについても触れておきます。

CT・MRIのメリットとデメリットについて

図3

救急搬送されて、脳卒中を疑う場合、はじめはCT検査をすることが多いと言われています。

理由は、多くの施設に設置してあることや迅速、かつ安全に検査が出来るからです。

MRI検査の場合、小さな病変の判別に有利なのですが、時間がかかってしまうことやペースメーカーが禁忌なこともあり、救急時には、CT検査が第一選択となります。

MRI検査は、いくつか種類(撮像法)があります。
・T1強調画像
・T2強調画像
・FLAIR(フレアー)画像
・拡散強調画像(DWI) です。

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画像引用:病気がみえるVol.7 第1版 脳・神経 MEDICMEDIA

MRIは脳梗塞の診断に適すると言われますが、病期(超急性期~亜急性期など)により違いが大きいとされています。

発症から経過した時間帯により、どの種類の撮像法をみたらいいか注意が必要です。

今回のnoteでは、多くの施設にあるCT画像についてを中心に述べていきます。
※CTが見れるようになることで、MRI画像にも応用ができると思います。

CT画像診断のコツ

書籍『病態と症状でみる 脳の画像診断』には、
以下のような画像診断のコツが書かれています。
1.人間の脳はあいまいにしか覚えられない
2.脳のどこの部分を見分けるのか
3.情報を捨てることの重要性
4.スケッチしてみよう
5.人は失敗しないと覚えない
6.なるべくたくさんの画像を見るほうがよい
7.よくわからないときは左右で比較してみよう
8.「典型例」は自分の頭の中にしかそんざいしない
9.画像を作る原理だけは理解しておこう
10.画像診断は補助診断です
引用:病態と症状でみる 脳の画像診断 
著:土肥守 MCメディカ出版


もちろんすべてを紹介したいところですが、10個ではさすがに多いので、今回は3つに絞ってみましょう。

画像診断のコツ
1.情報を捨てる
2.スケッチしてみる
3.なるべく多くの画像をみる

 

 1.情報を捨てる

画像に慣れていないうちは、はじめから見るスライス画像を決めておきます。重要なスライス画像は以下の通りです。

皮質レベル
側脳室体部レベル(放線冠レベル)
基底核レベル(モンロー孔レベル)

図で出てくる丸印は、皮質脊髄路を示しています。

丸印
オレンジ:下肢 紫:体幹 緑:上肢 青:顔面

実際の、脳画像では、丸印がある部分に出血をみとめると、その部分の運動麻痺が強く出現すると判断します。

皮質レベル

画像8

皮質レベルでは、逆Ωを見つけるのがポイントです。

左図の黄色の線が中心溝です。中心溝の前方が一次運動野、後方が一次感覚野となります。皮質レベルでの皮質脊髄路は、顔面がまだ出現していないのが特徴です。

 

側脳室体部レベル

丸印
オレンジ:下肢  紫:体幹  緑:上肢  青:顔面

側脳室体部レベル

ここで目印になるのが、左図黄色で示している側脳室です。側脳室は脳脊髄液で満たされており、CT・MRIでは黒くうつるのが特徴です。他の構造とは明らかに異なるので、目印になります。カタカナのハの字のように側脳室が位置しているのが、側脳室体部レベルです。

 

基底核レベル

丸印
オレンジ:下肢  紫:体幹  緑:上肢  青:顔面
​​

画像11


https://twitter.com/motoyam54617946/status/1261519332560957440?s=20

虫の触覚のような黒い部分は側脳室です。側脳室が小さくなる部分で、基底核レベルになります。

ここでは、脳出血の70%を占める視床や被殻が存在します

診断名だけの判断ではなく、皮質脊髄路のどの部分で脳損傷が起こっているのかを、脳画像で確認します。

脳画像をみることで、下肢に麻痺が強く出るのか、上肢に麻痺が強く出るのかを判断することができます。

他にも大事な、

・中脳レベル
・橋レベル
・延髄レベル

のスライス画像については
機会があればそのうち触れたいと思います。

 2.スケッチしてみる

絵や図の重要性については、精神科医である樺沢先生の著書『アウトプット』にも書かれています。

文字よりも、絵は圧倒的に記憶に残りやすい。インプットが視覚的であればあるほど認識しやすく、思い出す可能性が高くなる。心理学ではこれを、「画像優位性効果」と呼びます。
引用書籍 学びを結果に変える アウトプット大全 
   著:樺沢紫苑 サンクチュアリ出版

目でみて、覚えた気持ちになってしまう。恥ずかしながら過去の私はそうでした。人間の脳って単純で、すぐにその気になってしまうんですよね。

実際に、紙に書き出してみましょう。画像をスケッチすることで、『どこに着目する必要があるのか、自分が理解しているところがどの部分なのか』が、はっきりとわかるようになります。

ちなみに、書き出してみる勉強法は、脳画像以外にも応用することができます。
筋肉、神経、骨、皮膚など、実際に紙に書き出してみると、『わかるところ』と『理解が曖昧なところ』がわかるので、おすすめですよ!

 3.なるべく多くの画像をみる

やはり、「習うより慣れろ」です。笑

脳に記憶を定着させるためには、想起が重要と言われていますし、多くの画像をみて、目を慣らしてみてください。

人間の脳の視覚前野は、画像をたくさん見ると、共通点や相違点を分類したり見分けられるようになる、と言われています。

自分が担当する症例だけでなく、代行(代診)で介入する症例のCT画像もみる習慣をつけてしまうことをおススメします。

実習生の方々は、実際に担当するケースだけでなく、見学をしたケースについても、「脳画像はどんな感じなんですか?」って質問してみてもいいかもしれませんね。

まとめ

今回は、CT/MRIの特徴やCTスライス画像について紹介しました。

◎皮質レベルでは、逆Ωサインをみつけること
◎側脳室レベルでは、脳脊髄液で満たされる側脳室をみつけること
◎基底核レベルでは、側脳室は小さくなり、視床・被殻などが存在すること

画像診断のコツまとめ

今回は、CT画像のみかたについてまとめましたが、
小山哲男の資料には、

”CT画像に関する支持的エビデンスは乏しい”
小山哲男:
運動機能障害の予後予測 
脳卒中患者の拡散テンソル画像FA値の有用性:
総合リハ.第46巻7号.2018年7月号

とも述べられています。CT画像は、あくまでも評価の補助資料とすべきだということでしょうね。

『脳画像がすべてだ』みたいな考えを持ってしまうと、実際に対象者さんが抱えている問題を見落としてしまうこともあります。

教科書や文献に当てはめた臨床はしないように、

対象者さんと向き合う👉わからないことがある👉教科書や文献を調べる、の流れは大事にしたいですね。


最後までご覧いただきありがとうございました(^^)/


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参考文献

・脳卒中の病巣解析による予後予測の動向:服部憲明ら:総合リハ第46巻7号2018年7号
・我々が用いている脳卒中の予後予測Ⅳ:前田真治:journal of clinical rehabilitation:vol10.No4.2001.4
・視床出血によりAtaxic hemiparesisを呈した一症例
北郷仁彦ら: 第30回関東甲信越ブロック理学療法士学会.口述発表
・体幹筋群への協調運動の介入により、運動失調・歩行能力が改善した左視床出血の一症例
石塚正泰ら: 第37回関東甲信越ブロック理学療法士学会
・左視床出血によりAtaxic Hemiparesisを呈した一症例
北郷仁彦ら: 脳科学とリハビリテーション:症例報告
・小山哲男:運動機能障害の予後予測 脳卒中患者の拡散テンソル画像FA値の有用性:総合リハ.第46巻7号.2018年7月号

書籍

・病気がみえるVol.7 第1版 脳・神経 MEDICMEDIA
・病態と症状でみる 脳の画像診断 著:土肥守 MCメディカ出版
・リハに役立つ脳画像 著:大村 監修:酒向 メジカルビュー社
・学びを結果に変える アウトプット大全 著:樺沢紫苑 サンクチュアリ出版