実践的な歩行の知識
歩行の機能的単位
歩行の機能的単位¹⁾として、パッセンジャー(乗客;上半身と骨盤)とロコモーター(機関車;骨盤と下半身)が挙げられます(図1)。
図1 歩行の機能的単位と役割
パッセンジャーは、全身質量の約70%を占め、その役割は自らの姿勢を保つことです。アライメントが重要になります。
ロコモーターの役割は、パッセンジャーを支えながら前方へ運ぶことです。
パッセンジャーの移動幅
パッセンジャーの上下動²⁾
矢状面では、重心位置は両脚支持期にあたる初期接地(initial contact;以下IC)または荷重応答期(loading lesponse;以下LR)と対側の前遊脚期(pre-swing;以下PSw)で最も下降し、単脚支持期にあたる立脚中期(mid stance;以下Mst)と対側の遊脚中期(mid swing;以下MSw)後半で頂点となります(図2)。
図2 パッセンジャーの上下動のタイミングと移動幅
パッセンジャーの最低地点と最高地点の差は、平均2.5cmとされています。
パッセンジャーの過度な上下動の例として、足関節背屈制限によるミッドスタンスでの重心上昇が挙げられます(図3)。このような例では、上下の浮き沈みが目立ち、伸び上がり様の歩行が観察される場合があります。
図3 足関節背屈制限による過度な上下動の例
パッセンジャーの左右動²⁾
前額面では、上半身がMSt終期に最大側方移動(平均約4cm幅)し、TSt終期に中心位置に戻ります(図4)。
図4 パッセンジャーの左右動のタイミングと移動幅
パッセンジャーの過度な左右動の例として、脚長差による短脚側ローディングレスポンスでの側方動揺が挙げられます(図5)。
図5 脚長差による短脚側の側方動揺
🎥歩行の重心移動
歩行の流動性
歩行全体を通じて、リズミカルでスムーズな重心移動により流動的な動きを形成することができる³⁾とされています。
入谷は流動性を生み出す要素⁴⁾として、時間的過程、力動的過程、空間的過程を挙げています(図6)。
図6 流動性を生み出す要素
時間的過程とは、両脚支持期での加速と短脚支持期での減速を表します。立脚期は、倒立振子モデル⁵⁾*として捉えられ、運動エネルギーと位置エネルギーの転換を繰り返すことで円滑な加速と減速が生み出されます。
力動的過程とは、歩行における緊張と弛緩を表します。歩行において、足の上に体重が乗っているかが重視されます。下半身(ロコモーター)上に上半身(パッセンジャー)に乗ることで緊張が生まれ、その後の円滑な弛緩に繋がるとされています。
曲線的過程とは、歩行における曲線的な動きを表します。例として、四肢の動きが力みの少ない曲線的な動きであることが挙げられます。
*🎥倒立振り子運動
歩行の推進力
歩行の推進力とTLAの関係
Trailing Limb Angle(TLA)とは、股関節と第5中足骨底を結ぶ線と床面の垂直線との角度です。TStにおける歩行の推進力に寄与する⁶⁾と報告されています(図7)。
図7 ターミナルスタンスにおけるTLA
実際の臨床で、立脚後期における股関節伸展アライメントの獲得が着目される一つの理由となります。
歩行の推進力を生むロッカー機能
歩行の推進力を生む足部のロッカー機能¹⁾⁷⁾として、フォアフットロッカー機能とトゥロッカー機能が挙げられています(図8)。
図8 フォアフットロッカーとトゥロッカー
フォアフットロッカー機能は、TStに足趾のMTP関節伸展により足底腱膜が伸長されることで生み出される張力(ウィンドラス機構(図9))が働くことで、前方への強い推進力を生み出します。
図9 ウィンドラス機構
トゥロッカー機能は、PSwに前足部内側と母趾の転がりによってPush offがなされます。反対側の安定した接地の役割があるとされています。