2020年『痛みの定義』が変わりました。
すでにご存じの方も多いと思いますが、2020年7月16日に国際疼痛学会(International Association for the Study of Pain:IASP)が1979年来、41年ぶりに『痛みの定義』の改訂1)を行いました。
改訂の理由としては、
「痛みのニュアンスと複雑さをよりよく伝えるため、そしてそれが痛みのある人々の評価と管理の改善につながることを望んでいる1)」
とのことです。
では、一体何が変わったのでしょうか?
原文と和訳で照らし合わせてみます。
1979年 痛みの定義
原文
An unpleasant sensory and emotional experience associated with actual or potential tissue damage,or described in terms of such damage.
和訳
(痛みは、)組織の実質的あるいは潜在的障害にもとづいて起こる不快な感覚・情動体験であり、それには組織損傷を伴うものと、そのような損傷があるように表現されるものがある。
2020年 痛みの定義
原文
An unpleasant sensory and emotional experience associated with, or resembling that associated with, actual or potential tissue damage.
和訳
(痛みは、)組織の実質的あるいは潜在的障害にもとづいて起こる不快な感覚・情動体験、またはそれに類似した不快な感覚・情動体験である。
赤字で示した部分が改訂によるニュアンスの変化部分です。
1979年の『痛みの定義』では、
『組織損傷を伴うものと、そのような損傷があるように表現されるもの』
と損傷のありなしで区別することによって、急性痛と慢性疼痛の存在を提示2)していました。
一方、2020年の『痛みの定義』では、
『またはそれに類似した不快な感覚・情動体験』
と表現することで、組織の損傷を前提としなくなりました。
組織の損傷があろうがなかろうが『痛み』というものはありえますよといったニュアンスです。
さらに痛みに関して、6つの重要事項が提示されました。
- 痛みは常に個人的な経験であり、生物学的、心理的、社会的要因によってさまざまな程度で影響を受ける。
- 痛みと侵害受容は異なる現象である。感覚ニューロンの活動だけから痛みを推測することはできない。
- 個人は人生経験を通じて、痛みの概念を学ぶ。
- 痛みとしての経験に関する人の報告は尊重されるべきである。
- 通常、痛みは適応的な役割を果たしますが、機能的、社会的および心理的な健康に悪影響を及ぼす可能性がある。
- 言葉による説明は、痛みを表すいくつかの行動の1つにすぎない。コミュニケーションができないことからといって、人間や人間以外の動物が痛みを経験する可能性を否定するものではない。
IASPが今回の改訂によって伝えたいことは、
組織の損傷や侵害受容≠痛み
ではないかと読み取ることができます。
痛みは、あくまで個人的(主観的)な感覚や情動体験であり、その人の人生経験による。そして健康に悪影響を及ぼす可能性がある。
今回の改訂を機にセラピストはしっかりと理解しておきたいですね。
参考・引用文献
1)国際疼痛学会:IASP Announces Revised Definition of Pain.https://www.iasp-pain.org/PublicationsNews/NewsDetail.aspx?ItemNumber=10475&navItemNumber=643.最終閲覧日:2020年7月21日
2)沖田実:ペインリハビリテーション 入門.株式会社三輪書店,2019.
forPTの限定noteが大好評販売中!
毎月新作noteをお届けする読み放題プラン(定期購読)がオススメです。
ブログ記事の先行公開(パスワードあり)はこちら⏬⏬
歩行分析サロンへの入会はこちら⏬⏬
症例の歩行動画を通して動作分析スキルを極めたい方にオススメです。