
🔻新・臨床WEBサービス「forPT ONLINE」無料体験実施中!🔻
自律神経系の解剖学と内臓への分布
神経系は末梢神経系と中枢神経系に2大別され、末梢神経系は体性神経系と自律神経系に分けられます。
このうち自律神経系は、内臓の機能に関わるシステムである¹⁾とされ、交感神経系と副交感神経系に分けられます(図1、表1)。
図1 自律神経の遠心路
1)より画像引用
表1 内臓と自律神経支配
1)2)を参考に作成
交感神経系は胸腰髄に起始し、副交感神経系は脳幹と仙髄に起始します(図2)。
図2 自律神経系の求心路と遠心路
1)より画像引用
眼の自律神経の分布¹⁾
眼を支配する交感神経節前ニューロンは、第 8頸髄~第2胸髄(T8〜T2)の中間質外側核に起始し、頸部交感神経を通って上頸神経節に至り、節後ニューロンにシナプス連絡します(図3)。
副交感神経節前ニューロンは、中脳から起始し、動眼神経を通って脳幹を出て、毛様体神経節に至り、ここで節後ニューロンにシナプス連絡します(図3)。
図3 眼の自律神経支配
1)より画像引用
交感神経活動が高まると、瞳孔散大筋が収縮して散瞳が起こります。逆にこの神経の働きが抑制されると縮瞳が起こります(図4)。
図4 自律神経による瞳孔径の調節
1)より画像引用
心臓の自律神経の分布¹⁾
心臓支配の交感神経節前ニューロンは、第1~5(T1〜T5)胸髄の両側中間質外側核に起始し、頸部から上胸部の交感神経幹の神経節(星状神経節など)で節後ニューロンに連絡します(図5)。
心臓支配の副交感神経節前ニューロンは、延髄の迷走神経背側核(Ⅹ)と疑核に起始し、迷走神経を通って心臓に至り、節後ニューロンにシナプス連絡します(図5)。
図5 心臓に分布する自律神経
1)より画像引用
気道の自律神経の分布¹⁾
ヒトの場合、気道に分布する交感神経はごくわずかとされています(図6)。
気道支配の副交感神経節前ニューロンは、延髄の疑核に起始し、迷走神経(Ⅹ)を通って気道に至り、気道の壁内で節後ニューロンにシナプス連絡します。節後ニューロンは気道平滑筋や粘膜下腺に分布します(図6)。
図6 気道の神経支配
1)より画像引用
胃の自律神経の分布¹⁾
胃の交感神経節前ニューロンは第 6~10 胸髄に起始し、前根、白交通枝を通って交感神経幹に至ります(図7)。
胃支配の副交感神経節前ニューロンは、延髄の迷走神経背側核(Ⅹ)に起始し、迷走神経を通って胃の壁内神経叢に至り、そこで節後ニューロンにシナプス連絡して胃の平滑筋層に分布します(図7)。
図7 胃の神経支配
1)より画像引用
副交感神経は胃の緊張性を高めて蠕動運動を促進し、交感神経は胃の緊張性を下げて、蠕動運動を抑制します。
迷走走神経切断によって胃の運動は顕著に減弱し(時には停止する)、内臓神経切断の際には、運動が顕著に亢進するとされています。しかし、時が経過すると、ほとんどもとにかえり、また両種の神経を同時に切断したものでは、運動に変化が認められない³⁾と報告されています。
肝臓の自律神経の分布¹⁾
肝臓の交感神経は胸髄の中部~下部から出て、腹腔神経節で節後ニューロンに連絡してから、肝細胞に分布します(図8)。
肝臓の副交感神経は延髄の迷走神経背側核に起始し、迷走神経を通って肝臓に至り、節後ニューロンに連絡してから肝細胞に分布します(図8)。
図8 肝臓の神経支配
1)より画像引用
小腸・大腸の自律神経の分布¹⁾
小腸および大腸は主に壁内神経叢の調整により蠕動運動が行われます。
自律神経支配も受けており、小腸および大腸の口側は、迷走神経(副交感神経)と内臓神経(交感神経)の支配を受けます。
大腸の遠位部は、膀胱と同じく、骨盤神経(副交感神経)
と下腹神経(交感神経)の支配を受けます。
副交感神経は腸壁内にある亢進ニューロンと結びつき、交感神経は抑制ニューロンと結びついています。正常時には、副交感神経が亢進効果を、交感神経が抑制効果を持つ³⁾とされています(図9)。
図9 腸と自律神経の結びつきを示す模式図
3)より画像引用
排尿調整の自律神経の分布¹⁾
交感神経節前ニューロンは、胸腰髄のT11~L2の中間質に起始し、下腸間膜神経節で節後ニューロンに連絡し、下腹神経を通って膀胱・尿道に分布します(図10)。
副交感神経節前ニューロンは仙髄S2~S4 の中間質に起始し、骨盤神経を通って膀胱の近傍にある骨盤神経節あるいは膀胱壁内にある神経節に至り、そこで節後ニューロンに連絡して膀胱全体に広く分布します(図10)。
図10 膀胱と尿道の神経支配
1)より画像引用
内臓モビリゼーションの効果
慢性腰痛および内臓機能障害を持つ20名(女性19名、男性1名)に対し、5週間にわたり週1回、50分間のセッションを実施(前半40分は従来の理学療法(図11)、後半10分は実験群には内臓モビリゼーション(図12)、対照群にはプラセボの内臓モビリゼーションを実施)した結果、痛みの強度に両群間で有意差はなく、腰部の可動性とPatient-Specific Functional Scale(PSFS、図13)における特定の機能が実験群で有意に改善した⁴⁾との報告がみられます。
図11 理学療法プロトコル
((A)脊柱起立筋ストレッチ:背臥位で膝を腹部方向に引く。(B)膝回し:両肩を床につけたまま、膝を片側と反対側に倒す。(C)梨状筋ストレッチ:背臥位で片方の足首を反対側の膝の上に交差させ、この足を腹部方向に引く。(D)骨盤傾斜:骨盤の前転と後転を10~15回繰り返す。(E1) バック・エクステンション:腹臥位で、フリップした肘で上半身を支え、背中を伸ばす-10~15回繰り返す。(E2)バック・エクステンション・プログレッション:同じ姿勢で、肘を伸ばした状態で上半身を両手で支える。(F1)腹筋の活性化:背臥位で呼吸中に腹筋深部の等尺性収縮を行う。(F2) 腹筋の活性化 プログレッション1:同じ運動であるが、屈曲した膝を空中に持ち上げ、セット中安定させる。(F3) 腹筋の活性化 プログレッション2:同じエクササイズだが、伸ばした膝を空中で持ち上げ、セット中安定させる。(G1)背中と腰の筋肉の活性化:側臥位で、呼吸中に片側の背中と腰の筋肉を等尺性収縮させる。(G2)背部・臀部筋の活性化1:同じエクササイズを行うが、屈曲した膝を持ち上げ、足首を合わせ、脚を安定させたまま行う。(G3)背中と腰の筋肉の活性化2:同じエクササイズだが、膝を伸ばした状態で持ち上げ、セット中は安定させる。(H1) ブリッジ・エクササイズ:10回×3セット。(H2)ブリッジ・プログレッション:片足ブリッジを片側10回×3セット行う。(I1,2) 猫とラクダの四足運動-10~15回。(J1) シングル・アーム・レイズまたはレッグ・レイズ:四つ這いの姿勢で、すべての手足(腕と脚)を1本ずつ上げ、その姿勢を維持する。(J2)四つ這いの反対側の腕と脚を挙げる運動の進行:片側30秒×2セット。(J3)J2からのエクササイズ進行。(K1)プランク:膝で下半身を支えるプランク運動を30~60秒×2セット行う。(K2)プランク・プログレッション:足で下半身を支えるプランク・エクササイズを30~60秒×2セット行う。(L1)サイド・プランク:下半身を膝の上に乗せて行う。(L2)サイド・プランク・プログレッション:足で下半身を支えるサイド・プランク・エクササイズを30~60秒×2セット行う。)
4)より画像引用
図12 内臓マニュピュレーション・プロトコル
((A)噴門操作(1分間)。(B)幽門操作(1分間)。(C)十二指腸乳頭括約筋操作(1分)。(D)十二指腸空腸弁操作(1分間)。(E)回盲弁操作(1分)。(F)S状結腸操作(1分間)。(G)肝臓操作(10回繰り返し)。(H)血行動態操作(呼気時加圧10回、吸気時加圧10回)。)
4)より画像引用
図13 日本語版 Patient Specific Functional Scale 2.0
5)より画像引用
内臓との交感神経支配と痛みの参照部位
侵害受容刺激は、内臓反射を介して体性感覚系に痛みを伝えることが古くから知られており、その影響を受ける部位には腹壁や腰部骨盤領域が挙げられています(図14)。
図14 内臓との交感神経支配と痛みの参照部位
6)より引用日本語改変
腹膜と筋筋膜連結
体壁の後面を構成する壁側腹膜は、横隔膜の筋膜および大腰筋と直接接続し、後方に腸間膜を形成して内臓腹膜へと移行します(図15、16)。
図15 女性の骨盤腔
2)より画像引用
図16 体壁を覆う腹膜
(Rectus:腹直筋、Small intestine:小腸、Mesentery:腸間膜、Aorta:大動脈、Inferior vena cava:下大静脈、Descending colon:下行結腸、Quadratus lumborum:腰方形筋、Psoas major:大腰筋、Sacrosinalis:脊柱起立筋、Ascending colon:上行結腸)
6)より画像引用
腎臓は、横隔膜の筋膜と結合しています(図17)。呼吸運動により腎臓が上下に動くために重要とされています。大腰筋は、腎臓の内側に位置し、腎臓の位置を安定させる役割を果たします。大腰筋の筋膜は腎臓の周囲の脂肪組織と結合しています。また、腰方形筋は、腎臓の外側に位置し、腎臓の支持と安定に寄与しています。腰方形筋の筋膜も腎臓の周囲の結合組織と連結しています。
図17 腎臓と横隔膜、大腰筋および腰方形筋の位置関係
(Diaphragm:横隔膜、Left kidney:左腎臓、Right kidney:右腎臓、Renal vessels:腎血管、Quadratus lumborum:腰方形筋、Sacropsinalis:脊柱起立筋、Descending colon:下行結腸、Ascending colon:上行結腸、Iliac crest:腸骨稜、Pleura:胸膜、12th rib:第12肋骨)
6)より画像引用
参考・引用文献一覧
1)鈴木郁子:やさしい自律神経生理学 命を支える仕組み.株式会社中外医学社,2015.
2)H.Netter:ネッター解剖学アトラス 原著第7版.株式会社南江堂,2022.
3)福原武. 消化管運動の自律神経支配の特性. 日本平滑筋学会雑誌, 1969, 5.1: 1-8.
4)Santos, Lucas Villalta, et al. "Active visceral manipulation associated with conventional physiotherapy in people with chronic low back pain and visceral dysfunction: a preliminary, randomized, controlled, double-blind clinical trial." Journal of Chiropractic Medicine 18.2 (2019): 79-89.
5)石ヶ谷侑紀, et al. "Patient Specific Functional Scale 2.0 の日本語版作成 Patient Specific Functional Scale 2.0 の日本語版作成." 徒手理学療法 22.1 (2022): 03-09.
6)Horton, Ramona C. "The anatomy, biological plausibility and efficacy of visceral mobilization in the treatment of pelvic floor dysfunction." J Pelvic Obstet Gynaecol Physiother 117 (2015): 5-18.