腰椎椎間板ヘルニアの診断基準と疼痛誘発テスト

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腰椎椎間板ヘルニアの診断基準

画像7

腰椎椎間板ヘルニアは、MRI上の椎間板ヘルニア(椎間板の膨隆や脱出)と病歴臨床所見などを照らし合わせて診断が行われます。腰椎椎間板ヘルニアには、以下の4つの特徴的な病歴があります。

【腰椎椎間板ヘルニアに特徴的な病歴¹⁾²⁾】
・下腿に放散する疼痛
・神経根デルマトームに一致する疼痛
・咳・くしゃみによる疼痛の悪化
・発作性疼痛

特に、咳・くしゃみによる下肢痛の悪化は椎間板ヘルニアを示唆する重要な病歴³⁾とも言われています。

椎間板ヘルニアは激痛を伴う突然の発症が特徴の一つに挙げられています。

腰椎椎間板ヘルニアを診断するうえでは、MRIの画像所見や病歴だけではなく、臨床所見(身体所見)も大切になります。

以下は、腰椎椎間板ヘルニアでみられる臨床所見になります。

【腰椎椎間板ヘルニアでみられる臨床所見】
・各疼痛誘発テスト(SLRテスト・Lasègue テスト、交差SLRテスト、大腿神経伸展テスト(FNST))陽性
・疼痛放散領域
・筋力低下
・感覚障害
・深部腱反射の低下、消失

各疼痛誘発テストについては後述の「腰椎椎間板ヘルニアの疼痛誘発テスト」の項目をご参照ください。

疼痛放散領域は、問診によって神経根デルマトームに一致した放散痛がみられるかを聴取します。

筋力低下感覚障害深部腱反射は、障害神経根領域を考慮して合わせて評価します(図1)。

椎間板ヘルニア神経根領域

図1 腰椎椎間板ヘルニアにより障害を受ける筋肉、感覚、深部腱反射
a.L4神経根障害 b.L5神経根障害 c.S1神経根障害
4)より画像引用

若年者においては、体幹前屈制限ハムストリングスの短縮ヘルニア存在側凸の側弯が特徴的な臨床所見として挙げられています¹⁾⁵⁾。

腰椎椎間板ヘルニアの疼痛誘発テスト

SLRテスト/Lasègue テスト

※検査方法は2:20〜から紹介されています。

【検査方法】
対象者は背臥位となります。検査者は、検査側下肢の膝関節を完全伸展位で固定したまま股関節を屈曲していきます。
【判定】
SLRのROMが70〜80°以下の範囲で大腿後面〜膝窩部に坐骨神経症状が生じると陽性⁶⁾です。
【結果の解釈】
第5腰椎神経根や第1仙骨神経根に圧縮ストレスをかけることで、坐骨神経痛を誘発しています⁷⁾。特に若年者の腰椎椎間板ヘルニアでは高率で陽性になる¹⁾と言われています。特異度は低く単独の検査で椎間板ヘルニアを判断することは困難です。陽性の場合は、深殿部症候群(梨状筋症候群)の可能性も考慮します。


Bragardテスト

【検査方法】
対象者は背臥位となります。検査者は、SLRテストと同様に検査側下肢の膝関節を完全伸展位で固定したまま股関節を屈曲していきます。坐骨神経症状がみられたら、股関節屈曲角度を5°下げた後に足関節を背屈します。
【判定】
足関節背屈操作により坐骨神経症状が再現されるまたは増悪する場合、陽性です。
【結果の解釈】
SLRテストに比べて、より神経因性(坐骨神経)の疼痛を誘発していると考えられます。SLRテストとBragardテストの両方が陽性の場合は、椎間板ヘルニアを疑います。
【臨床応用のコツ】
SLRの最終域で足関節背屈操作を加える修正Bragardテスト⁸⁾があります。これは特に症状の急性期でSLRテストが陰性の場合に、坐骨神経症状を検出するのに有用です。

交差SLRテスト

【検査方法】
対象者は背臥位となります。検査者は、検査側の反対側下肢の膝関節を完全伸展位で固定したまま股関節を屈曲していきます。
【判定】
反対側下肢の挙上により、検査側下肢痛が出現すれば陽性です。
【結果の解釈】
腰椎椎間板ヘルニアを有する患者で高い感度を示す⁹⁾とされています。ただし特異度が低いため解釈には注意が必要です。

大腿神経伸展テスト(FNSテスト)

【検査方法】
対象者は腹臥位となり検査側下肢の膝関節屈曲90°とします。検査者は、検査側下肢の股関節を伸展していきます。
【判定】
大腿神経に沿った疼痛が出現すると陽性です。
【結果の解釈】
上位腰椎(L3〜L4)を中心とした椎間板ヘルニアの可能性を示唆しています。疼痛出現領域から、大腿前面ではL3、下腿前面ではL4、大腿外側では外側大腿皮神経の症状を疑います⁷⁾。

kempテスト

※検査方法は1:10〜から紹介されています。

【検査方法】
対象者は立位となります。検査者は腰椎を後屈させた後に側屈させます。
【判定】
同側の下肢痛を生じた場合、陽性です。
【結果の解釈】
脊柱管狭窄症(中心型、外側型、混合型)、椎間孔内に生じたヘルニア(椎間孔内外側型)による神経根絞扼症状を反映していると考えられます。

腰椎椎間板ヘルニアにおけるkempテスト陽性の解釈

腰椎椎間板ヘルニア患者に対する Kempテストを行った調査では、125 例中53例(42%)で陽性¹⁰⁾と報告されています。

一般に、腰椎椎間板ヘルニアにおける症状出現のメカニズムは、前屈動作や回旋動作に伴い椎間板内圧が上昇し、ヘルニアが後方へ突出することで神経を圧迫・牽引し症状を誘発していると考えられています。

ではなぜ、腰椎伸展動作を伴うkempテストで陽性例が出るのでしょうか?

その理由としては、脊柱管の狭窄椎間孔の狭窄椎間孔内に生じたヘルニアによる神経根絞扼が可能性として挙げられます(図2)。

スクリーンショット 2021-06-25 4.38.57

図2 脊柱管および椎間孔
11)より画像引用

kempテストでは、後屈・同側回旋動作により脊柱管および同側椎間孔の狭小が生じています(図3)。
 

スクリーンショット 2021-06-25 5.11.40

図3 kempテスト
10)より画像引用
 

つまり、腰椎椎間板ヘルニア患者のkempテスト陽性例では、ヘルニアの後方突出による神経症状の誘発だけではなく、脊柱管および椎間孔狭窄に伴う神経根絞扼症状の存在も考慮する必要があります。

通常、腰椎椎間板ヘルニアの保存療法では、椎間板内圧の減圧髄核の前方移動を促すことを目的に腰椎伸展位を促します¹²⁾。

ですが、kempテスト陽性を示すような神経根絞扼症状も疑われるようなケースでは、腰椎伸展動作が症状を増悪させるリスクとなる場合があるため注意が必要です。

MEMO 腰椎椎間板ヘルニアにおける神経根圧迫型と神経根絞扼型
腰椎椎間板ヘルニアは神経根の障害様式から神経根圧迫型神経根絞扼型に分類されます¹⁰⁾。神経圧迫型は脊柱管内に生じたヘルニアによる後方からの圧排と牽引によるもので、神経根絞扼型は椎間板や椎間関節などの後方要素との間で絞扼されます。椎間板ヘルニアでもそれぞれのタイプによって臨床所見が異なります(図4参照)。kempテストの解釈をするうえでの参考となります。

スクリーンショット 2021-06-25 5.41.24

図4 神経根圧排型と神経根絞扼型の特徴の違い
10)より引用

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参考・引用文献一覧
1)腰椎椎間板ヘルニア診療ガイドライン改訂第 3 版.
https://ssl.jssr.gr.jp/assets/file/member/topics/cervical_spine_200915.pdf .最終閲覧日2023.11.20.
2)Vroomen, P. C. A. J., M. C. T. F. M. De Krom, and J. A. Knottnerus. "Diagnostic value of history and physical examination in patients suspected of sciatica due to disc herniation: a systematic review." Journal of neurology 246.10 (1999): 899-906.
3)Verwoerd, Annemieke JH, et al. "A diagnostic study in patients with sciatica establishing the importance of localization of worsening of pain during coughing, sneezing and straining to assess nerve root compression on MRI." European Spine Journal 25.5 (2016): 1389-1392.
4)患者さんのための腰椎椎間板ヘルニアガイドブック 診療ガイドラインに基づいて.https://minds.jcqhc.or.jp/n/pub/1/pub0017/G0000475.最終閲覧日2023.11.20.
5)Zhu, Zezhang, et al. "Scoliotic posture as the initial symptom in adolescents with lumbar disc herniation: its curve pattern and natural history after lumbar discectomy." BMC musculoskeletal disorders 12.1 (2011): 1-8.
6)森本忠嗣. Straight Leg Raising test (SLR テスト) の定義の文献的検討. 日本腰痛学会雑誌, 2008, 14.1: 96-101.
7)工藤慎太郎:運動機能障害の「なぜ?」がわかる評価戦略.株式会社医学書院,2017.
8)Homayouni, Kaynoosh, Seyedeh Halimeh Jafari, and Hossein Yari. "Sensitivity and specificity of modified bragard test in patients with lumbosacral radiculopathy using electrodiagnosis as a reference standard." Journal of chiropractic medicine 17.1 (2018): 36-43.
9)Van Der Windt, Daniëlle AWM, et al. "Physical examination for lumbar radiculopathy due to disc herniation in patients with low‐back pain." Cochrane database of systematic reviews 2 (2010).
10)久野木順一. 腰痛疾患の臨床徴候と診断手技―局所病態, 臨床徴候, 画像所見との関連を中心に―. 日本腰痛学会雑誌, 2005, 11.1: 12-19.
11)江口和, et al. 腰椎椎間孔狭窄の診断. 千葉医学雑誌, 2010, 86.2: 43-50.
12)林典雄:関節機能解剖学に基づく整形外科運動療法ナビゲーション 上肢・体幹 改訂第2版.株式会社メディカルビュー社,2014.