トレンデレンブルグ徴候の原因と歩行分析

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トレンデレンブルグ徴候とは

 
観察側の下肢立脚相において、対側の骨盤が下制する現象をトレンデレンブルグ徴候と呼びます。立脚期にトレンデレンブルグ徴候がみられる歩行をトレンデレンブルグ跛行またはトレンデレンブルグ歩行といいます。歩行周期においては、荷重が始まるLRから側方移動が最大となるMSt終期まで観察されます。

有名な異常歩行のひとつで、中殿筋(股関節外転筋群)の筋力低下によって生じると一般に言われています。(中殿筋筋力低下や変形性股関節症以外の原因から起こるものをトレンデレンブルグ様現象と呼ぶこともあります。)

トレンデレンブルグ徴候の原因

トレンデレンブルグ徴候の機能解剖学および運動学的な原因には、以下が挙げられています。

トレンデレンブルグ徴候の機能解剖学および運動学的な原因
・股関節外転筋群の筋力低下¹⁾²⁾³⁾⁴⁾
・股関節内転筋群の拘縮または痙縮(股関節外転可動域制限)¹⁾⁴⁾
・大腿筋膜張筋の過緊張⁵⁾
・腰方形筋の過緊張⁵⁾
・上半身重心の対側への偏位⁴⁾
・同側寛骨の挙上かつ水平面上後方回旋アライメント⁴⁾
・足圧中心の外方および後方化⁴⁾
・足関節背屈制限⁴⁾
・距骨下関節回内可動域制限⁴⁾
・対側の下肢をICで床面に近づけるための意図的運動¹⁾

トレンデレンブルグ徴候はあくまで現象であり、何かしらの原因があって起こっています。

ここでは、トレンデレンブルグ徴候の原因として挙げられるものを一つずつ深掘りしていきます。
 

股関節外転筋群の筋力低下

股関節外転筋群(特に中殿筋)の筋力低下がトレンデレンブルグ徴候の原因となることは有名です。

中殿筋が着目される理由は、骨盤が対側に下制しないように制動できる筋肉です。

ただし中殿筋だけが大事かと言われるとそうではなく、走行が近似している小殿筋の筋機能も無視できません。

中殿筋と小殿筋の役割の違いは、小殿筋がより深部に存在することでインナーマッスルとしての股関節の安定性に寄与する割合が大きいことです。

トレンデレンブルグ徴候の原因は中殿筋かそれ以外かの判断材料
股関節外転筋力のMMT3+未満で骨盤の不安定性がみられる
¹⁾と言われています。(MMT3+の概念は実際にはないため、おそらく最大可動域位で軽度の抵抗に耐えられる程度だと考えられます。)つまり、股関節外転筋力のMMTが4以上あるのに、トレンデレンブルグ歩行が観察されるようなケースでは、股関節外転筋力の低下以外の他の原因を考慮する必要があります。

股関節内転筋群の拘縮または痙縮(股関節外転可動域制限)

股関節内転筋群の伸長性が低下している場合には、股関節は内転位をとりやすく、相対的に骨盤は対側下制位となります。

つまり、股関節外転制限がある場合には、トレンデレンブルグ徴候が陽性となる場合があります。

トレンデレンブルグ徴候に対する股関節内転筋群への評価・アプローチ
背臥位で安楽な状態をとってもらいトレンデレンブルグ徴候がみられる側の股関節が内転位となっていないかを観察します(図1)。この時、同側の骨盤が下制している場合もあるため、腸骨稜の高さも左右で比較しておきましょう。

次に、股関節外転可動域を測定します。同側の骨盤を下制位に固定しながら行うことで代償を防ぐことができます(図2)。トレンデレンブルグ徴候がみられる側と対側の可動域の左右差を比較してみましょう(両側でトレンデレンブルグ徴候が観察される場合は、その程度の大きさで比較します)。

ここまで確認したら、実際に股関節内転筋群をストレッチしてみましょう。ストレッチ前後で歩行観察を行い、トレンデレンブルグ歩行の程度が小さくなるようであれば、股関節内転筋群の短縮が影響していると解釈することができます。

図1 安楽背臥位での股関節内外転の観察(右股関節内転位の例)

図2 股関節外転の可動域測定(右側を測定)

トレンデレンブルグ徴候とデュシェンヌ徴候は何が違うのか?
トレンデレンブルグ徴候が股関節内転筋群の短縮(股関節外転制限)による影響を受けるのに対し、デュシェンヌ徴候は逆に股関節外転筋群の短縮(股関節内転制限)による影響を受けます。内転角度に制限がある場合は、トレンデレンブルグ徴候は起こりえず、必ずデュシェンヌ徴候が出現する⁶⁾⁷⁾と言われています。

大腿筋膜張筋の過緊張

 

二関節筋である大腿筋膜張筋は腸徑靭帯となって遠位に長く位置し、股関節および膝関節の外側支持機構を担っています。

腸徑靱帯は、受動的支持機構としての働きがあります。これはつまり、引き伸ばされて張力を発揮することで安定性に寄与しているということです。

片脚立位においては、股関節中間位に比べて、股関節内転、伸展、外旋位では腸徑靱帯の張力が増加する⁸⁾⁹⁾と報告されています(図3、図4)。

トレンデレンブルグ歩行では、立脚期で対側の骨盤が下制することで、股関節は内転位となります。腸徑靱帯の張力は高まり、大腿筋膜張筋の過緊張につながるのがメカニズムだと考えられます。

図3 片脚立位における各姿勢条件
9)より画像引用
NO:股関節中間位、PT:股関節伸展位、AT:股関節屈曲位、CD:股関節内転位、CR:股関節外転位、PR:股関節外旋位、AR:股関節内旋位

図4 各姿勢条件における腸徑靭帯の硬度
9)より画像引用
(股関節伸展位、内転位、外旋位では腸徑靱帯の硬度が高い)

立位での片側下肢荷重による中殿筋および大腿筋膜張筋の筋活動評価
両足を肩幅に開いた立位姿勢をとってもらいます。セラピストは後方に位置して、中殿筋または大腿筋膜張筋に軽く触れておきます。

そこから対象者自身に片側下肢へ重心移動を行ってもらいます。この時にセラピストは、同側の中殿筋または大腿筋膜張筋の筋活動を触知します。

正常であれば、どちらの筋も重心移動に伴って膨隆してくる感覚を触知することができます。大腿筋膜張筋の筋活動がはっきりと触知できるのに対して、中殿筋の収縮が弱かったり確認しずらいといった場合は、重心の側方移動に対して、大腿筋膜張筋優位の制御をしている可能性が考えられます。
(自分でやってみて確認することもできます!わざとトレンデレンブルグ様に荷重した時に中殿筋の出力が弱いのを感じ取ってみましょう)

図5 立位での片側下肢荷重による中殿筋および大腿筋膜張筋の筋活動評価

腰方形筋の過緊張

腰方形筋は、同側の骨盤を挙上する働きがあります。同側の腰方形筋が過緊張を起こすことで対側の骨盤は下制位となります。

立位姿勢において、骨盤挙上側(腸骨稜の位置が高い)は、腰方形筋の筋緊張が高い可能性があり、姿勢アライメントの影響によってトレンデレンブルグ徴候を起こす要因となります。


片脚立位における動作観察と触察による腰方形筋の評価

片脚立位の動作観察において、トレンデレンブルグ徴候陽性でかつ同側の肩峰が下制位(図6)となる場合は、腰方形筋が短縮位のアライメントを呈し過緊張を起こしている可能性があります。

立位姿勢における腰方形筋の筋緊張評価(図7)
まずは立位姿勢において、腸骨稜の高さを左右で比較します。
続いて、両側の腰方形筋を触察*して、筋硬度や筋緊張の左右差を比較します。(✳︎腰方形筋は第12肋骨の先端から約2横指内側の下縁で触知することができます。)

骨盤が挙上している側(腸骨稜の位置が高い)は、腰方形筋が短縮や過緊張を起こしている可能性があります。片側の腰方形筋の短縮や過緊張は、側弯症のアライメントと関連するため姿勢の特徴をあらかじめ押さえておくと良いです(図8)。

図6 片脚立位で腰方形筋短縮時にみられやすい姿勢アライメント

 

図7 腰方形筋の筋緊張評価手順

図8 非構築性脊柱側弯症と腰方形筋との関連

上半身重心の対側への偏位

上半身重心の対側への偏位は、身体重心と股関節中心との距離を遠ざけ、股関節の外部内転モーメントを増大させます(図9)。つまり、上半身の重さにより股関節を内転させる作用が強まることで、結果として股関節外転筋力がより求められ、トレンデレンブルグ徴候を助長する要因となります。

図9 上半身重心の対側偏位による股関節外部内転モーメントの増大
(上半身重心が左に偏位の例)

 

例えば図8で示すような側弯症では、上半身重心は左へ偏位しています。この場合では、右下肢立脚期でトレンデレンブルグ徴候がみられやすいと推測を立てることができます。

端座位での側方リーチ動作による上半身重心の偏位の評価⁴⁾(図10)
上半身重心の偏位が左右どちらか観察だけでは判断しづらい場合は、端座位で側方リーチ動作を行い評価します。多くの場合は、上半身重心が偏位している側へのリーチが大きくなります。例えば、左へのリーチが大きい場合は、上半身重心が左に偏位し、右立脚期でトレンデレンブルグ徴候がみられる可能性が高いかもしれないと予測を立てることができます。

図10 端座位での側方リーチ動作による上半身重心の偏位の評価
(左へのリーチが大きい例)

同側寛骨の挙上かつ水平面上後方回旋アライメント

 同側寛骨の挙上かつ水平面上後方回旋位では、相対的に股関節は屈曲、内転、内旋位となります。この肢位では、股関節後方筋群が伸長位となるため筋出力が発揮しづらくトレンデレンブルグ徴候を生じやすくする⁴⁾と考えられています。

これは、腰方形筋が短縮や過緊張を起こすことでみられるアライメントと一致するため合わせて評価できるとよいでしょう。

足圧中心の外方および後方化

足圧中心の外方および後方化は、トレンデレンブルグ徴候と関連すると言われています。これは、骨盤の側方移動が助長されるため(股関節内転位となりやすい)だと考えられます。

実際に立位で一方の足部の後外側に重心移動してみると自然にトレンデレンブルグ徴候のアライメント(対側骨盤下制位)になることが自身でも確認することができます。

距骨下関節回外位、距骨下関節回内可動域制限、外側縦アーチの低下¹⁰⁾足関節背屈制限は、足圧中心を外方および後方化する要因として挙げられます。

実際の臨床では、下腿の急激な外方傾斜(lateral thrust)に伴ってトレンデレンブルグ徴候が出現するケースもみられます。

トレンデレンブルグ歩行が引き起こす障害

トレンデレンブルグ歩行が引き起こす障害には、①股関節外転筋の弱化②大腿筋膜張筋(および腸徑靱帯)の過剰な張力による影響が挙げられます。

①股関節外転筋の弱化が長期化すると、異常歩行、片脚立位の困難性、姿勢不安定性、膝蓋大腿関節疼痛症候群、腰背部痛、足関節捻挫のリスク増加、膝関節不安定性、高齢者の転倒など、多くの機能障害に関連する¹²⁾とされています。

トレンデレンブルグ徴候の原因となる腰方形筋の過緊張や距骨下関節回外が腰痛足関節捻挫とも関連するというのは納得ができます。

②大腿筋膜張筋(および腸徑靱帯)の過剰な張力は、弾発股腸徑靱帯炎脛骨の外旋・後方変位、膝蓋骨の外側変位・外側傾斜を引き起こすリスク⁸⁾となります。

また、トレンデレンブルグ徴候は、寛骨臼の荷重面積が減少し大腿骨頭の外方への剪断力が生じやすいアライメントを呈し、股関節の不安定性を招きやすい⁴⁾ことが指摘されています(図12)。

図12 トレンデレンブルグ徴候の荷重面積減少と大腿骨の外方剪断力の増加
4)より画像引用
 

変形性股関節症診療ガイドラインでは、二次性の変形性股関節症の原因は、臼蓋形成不全が約80%¹³⁾と報告されています。

臼蓋の被覆が少ない臼蓋形成不全の方にとって、トレンデレンブルグ歩行を続けることは股関節の不安定性を助長し、二次性疾患のリスクとなるかもしれません。

トレンデレンブルグ徴候の歩行分析

ここでは、トレンデレンブルグ徴候が陽性の方の歩行動画から現象を捉えて、臨床推論をしていきましょう。

症例① 20代女性

【解説】
典型的なトレンデレンブルグ歩行をされています。両側で陽性ですが、骨盤が挙上している左側でより程度が大きくなっています。上半身重心は、右肩峰が大きく下制している様子からやや右に偏位している印象を受けます。両側の股関節外転筋力の低下および大腿筋膜張筋の過緊張、左側腰方形筋の過緊張、左股関節外転可動域の低下などが推察されます。

症例② 50代女性

【解説】
左側でトレンデレンブルグ徴候が観察されます。上半身重心の右側偏位が大きく、左側下肢への重心移動が十分に行えていません。右に比べ左足部は外転、脛骨外旋位となっていることからも、左側の腸徑靱帯に高い張力が生じていることが推察されます。

症例③ 50代女性

【解説】
左側でトレンデレンブルグ徴候が観察されます。左下肢が踏み出し脚*となっており、重心の側方移動(骨盤側方sway)も大きくなっています。左立脚期でトレンデレンブルグ陽性でかつ左肩峰が下制する様子が観察されることから、左側腰方形筋の過緊張を生じている可能性が挙げられます。また左IC(踵接地)で股関節内転位での接地となっていることから、股関節外転可動域制限があると推察されます。

✳︎踏み出し脚とは、前方への振り出しが大きい(遊脚相が長い)方の下肢のことを言います。(入谷誠先生によって提唱された概念です。)

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参考・引用文献
1)月城慶一ら:観察による歩行分析 第1版.株式会社医学書院,2013.
2)石井慎一郎:動作分析 臨床活用講座 バイオメカニクスに基づく臨床推論の実践 第1版.株式会社メディカルビュー社,2015.
3)工藤慎太郎:運動機能障害の「なぜ?」がわかる評価戦略.株式会社医学書院,2017.
4)永井聡:股関節理学療法マネジメント.株式会社メディカルビュー社,2018.
5)荒木茂:マッスルインバランスの理学療法.株式会社運動と医学の出版社,2018.
6)熊谷匡晃:股関節拘縮の評価と運動療法 第1版.株式会社運動と医学の出版社,2019.
7)林典雄:関節機能解剖学に基づく整形外科運動療法ナビゲーション 下肢 第2版.株式会社メディカルビュー社,2014.
8)市橋則明:身体運動学 関節の制御機構と筋機能.株式会社メジカルビュー社 第1版,2017.
9)Tateuchi, Hiroshige, Sakiko Shiratori, and Noriaki Ichihashi. "The effect of three-dimensional postural change on shear elastic modulus of the iliotibial band." Journal of Electromyography and Kinesiology 28 (2016): 137-142.
10)山口光圀ら:結果の出せる整形外科理学療法 運動連鎖から全身をみる 第1版.株式会社メディカルビュー社,2012.
11)OLEKSY, Ł., et al. Intrarater reliability of the Foot Posture Index (FPI-6) applied as a tool in foot assessment in children and adolescents. Medical Rehabilitation, 2010, 14.4: 10-20.
12)Neumann, Donald A:筋骨格系のキネシオロジー 原著 第3版.医歯薬出版株式会社, 2012.
13)日本整形外科学会:変形性股関節症診療ガイドライン2016 改訂第2版.
https://minds.jcqhc.or.jp/docs/minds/osteoarthritis-of-the-hip/osteoarthritis-of-the-hip.pdf