転倒後の仙骨部痛ー急性外傷の知識と症例報告ー

症例紹介と受傷機転

症例は、30代女性です。受傷機転は、雨の日に屋外の階段降りで足を滑らせ尻餅をつき仙骨下部を強打しました。

受傷直後より歩行は可能でしたが、仙骨部には動作時痛および違和感がみられました。感覚鈍麻や痺れなどの明らかな神経症状はみられませんでした。

時系列に倣いまずは、本症例のリスク管理に必要な急性外傷の知識(骨折の治癒過程、仙骨骨折*、急性痛のアプローチ)を確認していきます。
(✳︎本症例では、医師の診断を受けていないため、骨盤骨折(仙骨骨折)の可能性を留意しての介入になります。)
 

 

一般に、骨折後のリハビリテーションでは、医師の診断とともに安静度の指示があります。しかし、例えば上腕骨近位端骨折後に肩関節屈曲90°までの可動域練習開始の指示があった場合、どれくらいの運動負荷が許容されるかはセラピストも留意すべき点と考えられます。

本症例の急性外傷(転倒後のリスク管理)に関わる知識

骨折の治癒過程

骨折の治癒過程は、主に炎症期修復期(仮骨形成期)リモデリング期の3つのステージ¹⁾²⁾³⁾⁴⁾で成り立ちます(図2、3)。

図2、3 骨折の治癒過程3つのステージと単純X線画像
1)5)より画像引用
 

炎症期は、骨折直後から数日の期間¹⁾とされています。出血により骨折部を中心に血腫が形成されます。そこに炎症性細胞(マクロファージ、リンパ球など)が誘発されて急性炎症が生じます。炎症性細胞から放出されるTNF-a、interleukin(IL)-1、 IL-6などの炎症性サイトカインは、骨折治癒を正常に開始するために重要な役割を担っている²⁾とされています。

修復期は、炎症期後から6〜8週までの期間¹⁾とされています。骨折部近傍では間隙を埋めるように内軟骨性骨化によって軟骨(軟性仮骨)が形成されます。軟骨形成と平行して、骨折部から少し離れたところでは骨膜が肥厚し、膜性骨化によって骨膜下に骨組織(硬性仮骨)が形成されます。このようにして骨折後2 週頃までに仮骨の大きさはピークに達する²⁾³⁾と言われています。この時、単純X線画像上は骨が太くなったように見えますが、強度はまだ強くありません¹⁾。

リモデリング期は、数ヶ月〜数年¹⁾を要するとされています。骨折後4週頃、軟骨がすべて骨組織に置換され骨癒合に至ります。この後2〜4週の長い期間をかけて機械的負荷に耐えうる層板構造をもった正常骨組織へとリモデリングし、骨折前の形態に回復していきます³⁾。

骨癒合(回復)の促進する因子の一つとして、血流の確保⁶⁾⁷⁾が挙げられています。
これに関連し、骨癒合期間は部位によって異なります。各部位の骨癒合や機能改善期間の目安は、GurltやColdwellの表が有名です。

仙骨骨折の知識

仙骨骨折は、骨盤輪骨折の23%に伴うと報告され、仙骨横骨折転倒などの比較的小さな外力でも発生することがある⁸⁾と言われています。

【骨盤骨折の分類】
骨盤骨折の分類
はさまざまある中で、米国の整形外科外傷学会(OTA)との間で協議されたAO/OTA分類が用いられることが多い⁹⁾¹⁰⁾とされています(図4)。

図4 骨盤骨折 AO/OTA分類
9)より画像引用
 

AO/OTA分類において、Type Aは安定型骨折、Type Bは部分安定型骨折、Type Cは完全不安定型になります。

仙骨横骨折はこのうちType A(安定型骨折)にあたり、骨盤輪構造の破綻を伴わない骨折とされ、基本的に保存療法が適応¹¹⁾となります。

ただし、仙骨骨折の治療方針の決定には、骨折部の不安定性神経症状の合併の2つの因子の有無が重要¹¹⁾とされています。

つまり、仙骨単独の骨折ではなく、骨盤輪の構造破綻を伴うケースや下肢運動機能障害および感覚障害(L4〜S2)、膀胱直腸障害(S2〜S4)、性機能障害などの神経損傷を合併しているケースは、その程度によって治療方針に影響します。

【仙骨骨折の分類】
仙骨骨折の分類はさまざまある中で、Denis分類が最も広く用いられています⁸⁾(図5)。

図5 仙骨骨折のDenis分類
8)より画像引用
 

Denis分類は、仙骨を神経孔より外側神経孔神経孔より内側の3つのzoneに分け、外側から zone IIIIIIの順に分類しています。


 

急性外傷後のリスク管理の面では、骨折に関する知識に加え、急性痛(炎症期)に対するアプローチについても事前に押さえておく必要があります。

急性痛(炎症期)に対するアプローチ

急性外傷発生後の処置として、アイシング(icing)、圧迫(compression)、挙上(elevation)、安静(rest)、患部保護(protection)の応急処置が一般に広く知られています。

しかしこれらの処置に対するエビデンスは少なく、患部あるいは全身の運動制限に伴う不活動が、慢性疼痛二次的な運動機能障害(可動域低下や筋力低下)などのさまざまな問題に波及する¹³⁾¹⁴⁾と指摘されています(図6)。

図6 急性痛から波及する様々な問題
14)より画像引用
 

さらに昨今では、安静(不動、固定)は回復を阻害する一方、力学的負荷を段階的にかける治療が最も効果的である⁶⁾と一貫して報告されています。
 

 

安静? or 介入?の判断

急性外傷に関する知識本症例の転倒直後の状態とを照らし合わせていきます。

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