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頸椎の骨・関節構造
頸椎は7個存在し、第1〜2頸椎を上位頸椎、第3〜第7頸椎を下位頸椎と呼びます(図1、2)。
図1 頸椎の骨構造①
図2 頸椎の骨構造②
上位頸椎(環軸関節)の構造
上位頸椎である環椎と軸椎によって環軸関節が構成されます(図3)。
図3 環軸関節
環軸関節には椎間板はなく、滑膜関節と靱帯により連結¹⁾されます。正中環軸関節と外側環軸関節があります。
正中環軸関節²⁾は、環椎の歯突起窩と軸椎の歯突起前面の間、環椎横靭帯と軸椎の歯突起後面の間で構成されます(図4)。
図4 正中環軸関節
外側環軸関節²⁾は、環椎の下関節面と軸椎の上関節面で構成されます(図5)。
図5 外側環軸関節
環軸関節のおおむねの可動域³⁾は、屈曲5°、伸展10°、側屈ごく小範囲、回旋35〜40°とされています。また、頚椎回旋運動において可動域の6割を分担する¹⁾とされています(図6)。
図6 頸椎の各椎間関節間の可動域
(一部日本語改変)
4)より画像引用
環軸関節(外側環軸関節)の関節面は、平坦かつ水平面に近い向きであり、軸回旋の範囲を最大にする設計³⁾となっています(図7)。
図7 外側環軸関節の関節面
下位頸椎の構造
下位頸椎には鉤状突起があるのが特徴(胸椎や腰椎にはない)として挙げられます(図8)。
図8 頸椎の鉤状突起
(前方より観察)
これにより下位頸椎には、左右の椎間関節だけでなく、鉤状椎体関節(Luschka 関節,ルシュカ関節)が存在します(図9)。
図9鉤状椎体関節
(前方より観察)
鉤状椎体関節は、椎間の回旋や側屈の安定性に寄与している¹⁾とされています。
下位頸椎椎間関節の関節面は、水平面に対して45°〜60°の傾斜がある¹⁾³⁾⁵⁾⁶⁾と報告されています(図10)。この角度は各椎体で異なり、C5椎体で最小、C7椎体で最大¹⁾⁷⁾とされています。
図10 下位頸椎椎間関節関節面の傾斜角度
頸椎の運動学
頸椎のカップルドモーション
カップルドモーションとは、ある運動に随伴して生じる異なる方向への運動のこと¹⁾⁸⁾です。脊柱の運動(カップルドモーション)では、側屈時に回旋を、回旋時に側屈を伴います。
頸椎の運動では、側屈時に上位頸椎は反対側へ回旋し、下位頸椎は同側へ回旋します(図11)。回旋時に上位頸椎は反対側へ側屈し、下位頸椎は同側へ側屈します(図12)
図11 頸椎の左側屈時のカップルドモーション
1)より画像引用
図12 頸椎の左回旋時のカップルドモーション
1)より画像引用
上位頸椎の反対側への側屈や回旋は、翼状靱帯の牽引⁹⁾によって引き起こされるとされています。
頸椎椎間関節の関節包内運動³⁾
頭頸部屈曲時の関節包内運動では、環椎後頭関節(頭部)は前方に転がり、上位椎体の下関節面は下位椎体の上関節面に対して上方および前方に滑ります(図13)。
図13 頭頸部屈曲時の関節包内運動
3)より画像引用
頭頸部伸展時の関節包内運動では、環椎後頭関節(頭部)は後方に転がり、上位椎体の下関節面は下位椎体の上関節面に対して、下方および後方に滑ります(図14)。
図14 頭頸部伸展時の関節包内運動
3)より画像引用
頭頸部回旋時の関節包内運動では、環椎後頭関節(頭部)はわずかに同側へ転がります。椎体の下関節面は、同側では後方かつわずかに下方に滑り、対側では前方かつわずかに上方に滑ります(図15)。
図15 頭頸部回旋時の関節包内運動
3)より画像引用
頭頸部側屈時の関節包内運動では、環軸関節は同側が後方に、対側が前方に滑ります。椎体の下関節面は、同側では下方およびわずかに後方に滑り、対側では上方およびわずかに前方に滑ります(図16)。
図16 頭頸部側屈時の関節包内運動
3)より画像引用
頭頸部の安定性⁵⁾
環椎後頭関節の安定性は、「第1のてこ」によって供給されます。
頭部の重心は、外耳孔の前上方に位置します。頭部重心から環椎後頭関節まで垂直延長した位置が荷重点となり、頭部伸筋群の付着部である力点となります(図17)。
図17 頭頸部の安定性
5)を参考に作成
抗重力位では、頭頸部に常に屈曲の外的モーメントが加わるため、頸部伸筋群の筋活動による内的モーメントを発生させて頭頸部の安定性を保っています。
椎骨動脈の血流と頸椎アライメントの関係性
椎骨動脈は、鎖骨下動脈から分岐後に第6頸椎横突孔から入り上行し環椎の横突孔を出て大後頭孔を通り頭蓋内に入ります(図18)。
図18 椎骨動脈の走行
椎骨脳底動脈循環不全(Vertebrobasilar Insuffi- ciency:VBI)の患者では、健常者よりも頸椎の対側回旋によって頭蓋内の椎骨動脈血流速度が低下する¹⁰⁾と報告されています。
健常者において、頸椎中間位に比べて最大回旋位で対側椎骨動脈の血流速度が低下した¹¹⁾との報告があります。同研究において頸部最大右回旋で右椎骨動脈の血流増加を認めたとされています。
椎骨動脈とめまいの関連について、めまい時は椎骨動脈血流速度の左右差が大きく、めまいが改善するとその左右差は是正される¹²⁾と報告されています。
🎥【解説】椎骨動脈と頸椎アライメントの関係性
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参考・引用文献一覧
1)長本行隆. 頚椎のバイオメカニクス. The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine, 2016, 53.10: 746-749.
2)市橋則明:身体運動学 関節の制御機構と筋機能.株式会社メディカルビュー社,2017.
3)Neumann, Donald A:筋骨格系のキネシオロジー 原著 第3版.医歯薬出版株式会社, 2012.
4)Augustus A. White III, Manohar M. Panjabi:Clinical biomechanics of the spine second edition.Lippincott Williams & Wilkins,1990 .
5)村木孝行 :肩関節痛・頸部痛のリハビリテーション.株式会社洋土社,2018.
6)中村隆一:基礎運動学 第6版.医歯薬株式会社,2011.
7)Panjabi, Manohar M., et al. "Articular facets of the human spine quantitative three-dimensional anatomy." Spine 18.10 (1993): 1298-1310.
8)Augustus A. White III, Manohar M. Panjabi:Clinical biomechanics of the spine second edition.Lippincott Williams & Wilkins,1990 .
9)竹井仁:姿勢の教科書.株式会社ナツメ社,2015.
10)Mitchell, Jeanette. "Vertebral artery blood flow velocity changes associated with cervical spine rotation: a meta-analysis of the evidence with implications for professional practice." Journal of Manual & Manipulative Therapy 17.1 (2009): 46-57.
11)佐伯武士, 浜岡隆文, and 栗原俊之. "頸部回旋運動に伴う椎骨動脈血流変化の検討." 理学療法学 Supplement Vol. 40 Suppl. No. 2 (第 48 回日本理学療法学術大会 抄録集). 日本理学療法士協会 (現 一般社団法人日本理学療法学会連合), 2013.
12)松永喬. 椎骨動脈血流動態異常とめまい. 耳鼻咽喉科臨床, 1992, 85.10: 1531-1541.