仙腸関節性腰痛の理解と評価アプローチ

仙腸関節の構造

仙腸関節の骨・関節構造

仙腸関節は、仙骨と腸骨の間に位置し、関節包と滑液、関節軟骨、滑膜を持つ滑膜性関節です。

仙腸関節の運動範囲は、2~4°未満の回転運動と1~2mmの並進運動であり、非常に小さい¹⁾とされています(図1)。

図1 仙腸関節の運動範囲

仙腸関節の役割

仙腸関節は荷重負荷や床半力を受けとり負荷を分散させたり、骨間靭帯によって緩衝作用を有します。

より具体的には、以下の2つの役割が挙げられています。

【仙腸関節の2つの役割】²⁾
・上半身の重量を下肢に伝達する
・衝撃緩衝作用(主に踵接地時)

仙腸関節の安定化機構

仙腸関節の安定化機構には、フォームクロージャーフォースクロージャーの2つの機構¹⁾が挙げられています(図2)。

図2 仙腸関節の2つの安定化機構

フォームクロージャーは、仙骨と寛骨の骨構造による安定化機構です。
フォースクロージャーは、靭帯、筋肉、筋膜による安定化機構です。

仙腸関節の安定化に関与する靭帯

仙腸関節の安定化に関与する靭帯²⁾には、前仙腸靭帯腸腰靭帯骨間靭帯長短後仙腸靭帯仙結節靭帯仙棘靭帯が挙げられています(図3、4)。

図3 仙腸関節の靭帯構造(前方)
1)より画像引用

図4 仙腸関節の靭帯構造(後方)
1)より画像引用

仙腸関節の安定化に関与する筋肉

仙腸関節の安定化に関与する筋肉²⁾には、脊柱起立筋多裂筋横隔膜骨盤底筋群腹直筋内腹斜筋外腹斜筋腹横筋大殿筋大腿二頭筋広背筋腸骨筋梨状筋が挙げられています(図5)。

図5 仙腸関節の安定化に関与する筋肉

仙腸関節の運動学

仙腸関節の運動には以下の4つが挙げられています。

【仙腸関節の4つの運動】
・ニューテーション
・カウンターニューテーション
・インフレア
・アウトフレア

・ニューテーション(図6)

図6 ニューテーション

ニューテーションとは、矢状面上で、腸骨に対して仙骨が前傾または仙骨に対して腸骨が後傾する運動をいいます。仙骨および腸骨の運動は同時に起こる場合もあります。

・カウンターニューテーション(図7)

図7 カウンターニューテーション

カウンターニューテーションとは、腸骨に対して仙骨が後傾または仙骨に対して腸骨が前傾する運動をいいます。仙骨および腸骨の運動は同時に起こる場合もあります。

・インフレア(図8)

図8 インフレア

水平面上で、寛骨が内方へ回旋する運動をいいます。この時、ASIS(上前腸骨棘)は内側へ、PSIS(上後腸骨棘)は外側へ偏位します。

・アウトフレア(図9)

図9 アウトフレア

水平面上で、寛骨が外方へ回旋する運動をいいます。この時、ASIS(上前腸骨棘)は外側へ、PSIS(上後腸骨棘)は内側へ偏位します。

インフレアおよびアウトフレアは、単独の運動として起こることはないとされています。

インフレアでは矢状面上での寛骨の前方回旋(前傾)、アウトフレアでは矢状面上での寛骨の後方回旋(後傾)との複合運動で生じると考えられています。

多くの文献や書籍では、以上の4つの運動が紹介されています。一方実際には、前額面上でみる寛骨の下方回旋および上方回旋も知っておく必要があります。

・寛骨の上方回旋および下方回旋(図10)

図10 寛骨の上方回旋および下方回旋

前額面上で、寛骨の上方回旋は左右の腸骨稜は近づいたアライメント、下方回旋は左右の腸骨稜は離れいわゆる骨盤が開いたようなアライメントになります。
寛骨の下方回旋位が腰痛症状を引き起こす要因となっているケースが臨床でも多くみられます。

仙腸関節性腰痛の病態

仙腸関節性腰痛は、侵害受容器が豊富に存在する(図11)仙腸関節に中腰での作業や不用意な動作、反復性の作業などの荷重負荷に伴う関節への剪断力が影響している³⁾と考えられています。

図11 仙腸関節に存在する侵害受容器
4)より画像引用

仙腸関節性腰痛の特徴的な臨床所見

仙腸関節性腰痛または仙腸関節障害由来の疼痛を生じるのは、以下の部位になります(図12)。

図12 仙腸関節由来の疼痛部位100例
3)より画像引用一部改変

特に、PSIS付近仙腸関節面に沿った疼痛を訴える場合は、仙腸関節痛の可能性は高いです(図13)。

図13 仙腸関節性腰痛の特徴的な臨床所見

one finger testとは、対象者に一番痛いところを指さしてもらう検査です。この検査で、PSIS付近を指さした場合は、仙腸関節障害が強く疑われます

仙腸関節性腰痛のスコアリングシステム

仙腸関節性腰痛を他の原因と鑑別する評価指標として、スコアリングシステム⁵⁾が存在します。

スコアリングシステム⁵⁾(図14)では、one finger test(3点)鼠径部痛(2点)椅子座位での疼痛(1点)仙腸関節剪断テスト(1点)PSISの圧痛(1点)仙結節靭帯の圧痛(1点)を評価加点し、合計点が4点以上で仙腸関節痛と腰椎椎間板ヘルニアおよび腰部脊柱管狭窄症との鑑別ができます。

図14 仙腸関節痛のスコアリングシステム
5)を参考に作成

🎥仙結節靭帯の触診方法

https://www.youtube.com/watch?v=rYfaZ9SAqK0

仙腸関節性腰痛の評価ポイントとアプローチ

仙腸関節性腰痛の臨床における評価ポイントは以下の4つ挙げられます。

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