椎間関節性腰痛の理解と評価アプローチ

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腰椎の可動域

腰椎全体の可動域は、屈曲45〜55°伸展15〜25°側屈20°回旋5〜7°とされ、股関節の屈曲伸展と組み合わさり体幹全体の矢状面での主要な回転中心を形成する¹⁾とされています(図1、2)。
※腰椎可動域は報告によって様々です。

図1 腰椎全体の可動域

図2 各椎間関節の可動域
(CERVICAL:頸椎、THORACIC:胸椎、LUMBAR:腰椎、Combined flexion/extention:複合屈曲/伸展、One side lateral bending:片側側屈、One side axial rotation:片側軸回旋)
2)より画像引用

腰椎回旋の可動域は比較的小さいことを理解しておく必要があります。

椎間関節の解剖学

椎間関節は、椎骨の下関節突起と1つ下位の椎骨の上関節突起から構成されます(図3)。

図2 椎間関節の構造

椎間関節には、痛覚を受容する侵害受容器(自由神経終末)が豊富に存在します³⁾(図3)。

図3 ヒト腰椎椎間関節包における 感覚神経終末の分布
3)より画像引用

腰椎のカップルドモーション

カップルドモーションとは、ある運動に随伴して生じる異なる方向への運動⁴⁾を言います。

腰椎は、生理的前弯位伸展位では、側屈と回旋は反対方向⁵⁾に起こります(図4)。
屈曲位では、側屈と回旋は同方向⁵⁾に起こります。

図4 生理的前弯位での腰椎の動き

腰椎運動で椎間関節にかかる圧力

腰椎屈曲運動では、椎間関節の上部に最大の圧力がかかります⁶⁾(図5)。
腰椎
伸展運動では、椎間関節の下部に最大の圧力がかかります⁶⁾(図5)。

腰椎回旋運動では、対側の下関節突起が上関節突起を圧迫します⁶⁾(図5)。

図5 腰椎運動で椎間関節にかかる圧力
6)より画像引用

また、腰椎運動における椎間関節への応力は、伸展回旋で大きくなります⁷⁾(図6)。

図6 腰椎運動で椎間関節(関節包)にかかる応力分布
7)より画像引用

腰椎運動における椎間関節の動き

腰椎屈曲運動では、両側椎間関節の下方は離開し、上方は圧縮されます(図7)。

図7 腰椎屈曲運動における椎間関節の動き

腰椎伸展運動では、両側椎間関節は圧縮されます(図8)。

図8 腰椎伸展運動における椎間関節の動き 

腰椎回旋運動では、対側椎間関節は圧縮され、同側椎間関節は離開します(図9)。

図9 腰椎回旋運動における椎間関節の動き

腰椎側屈運動では、同側椎間関節は圧縮されます(図10)。


図10 腰椎側屈運動における椎間関節の動き

椎間関節性腰痛の病態

椎間関節性腰痛は、侵害受容器が豊富に存在する椎間関節に過度な負荷がかかることで生じると考えられています。

具体的には、椎間関節性腰痛を引き起こす主な要因として以下が挙げられています。

【椎間関節性腰痛を引き起こす主な要因】
・腰椎伸展および回旋動作の反復
椎間板や脊椎の変性⁸⁾

椎間板変性は椎間関節への負荷が増大する因子とされています

腰椎椎間関節は、後屈すると荷重の平均16%を受けますが、脊椎に変性がある場合にその荷重は70%くらい受けるようになる⁸⁾と報告されています。

椎間関節性腰痛の特徴的な臨床所見

椎間関節性腰痛では、腰椎伸展動作時の腰痛棘突起および椎間関節の圧痛が特徴⁹⁾として挙げられています(図11)。また、椎間関節の炎症が隣接する神経根を刺激し下肢痛が生じることもあります。

図11 椎間関節性腰痛の特徴的な臨床所見

椎間関節性腰痛の評価ポイントとアプローチ

椎間関節性腰痛の臨床における評価ポイントは以下の4つ挙げられます。

【椎間関節腰痛の評価ポイント】
胸椎・股関節伸展制限
腹筋群のモーターコントロール
下位胸郭拡張制限
分節的脊柱伸展運動

これに関連した実際の評価やアプローチの例を以下にご紹介します。

胸椎伸展制限の臨床評価

胸椎伸展制限は、腰椎の過可動性を引き起こす要因となります。

臨床では、立位後屈または腹臥位体幹伸展運動脊柱の曲線を観察してみましょう(図12)。

図12 胸椎伸展制限の後屈および体幹伸展動作例

胸椎伸展制限の治療的評価

椎間関節性腰痛が疑われる後屈動作時痛に対して、評価者が徒手で肩甲骨内転位とし胸椎伸展を促した状態で後屈動作を再度行います(図13)。

図13 胸椎伸展制限の治療的評価

この操作で動作時の腰部痛が減弱する場合は、胸椎伸展制限や前胸部の柔軟性低下による影響を示唆しています。

評価結果に基づくセルフエクササイズへの反映

評価結果に基づき、胸椎伸展制限前胸部の柔軟性低下の改善を目的としたセルフエクササイズには以下のような例が挙げられます(図14、15)。

図14 セルフエクササイズへの反映・応用①

図15 セルフエクササイズへの反映・応用②

股関節伸展制限の臨床評価

腸腰筋の短縮テストとして有名なThomasテスト変法によって股関節伸展制限因子を評価することができます。

Thomasテスト変法⁹⁾では、ベッドの端に座った状態で反対側の大腿を胸までつけるように抱えることで十分に腰椎の前弯減少と骨盤の後傾をさせて、検査側の膝関節より遠位はベッドより出したまま背臥位になることで、検査側の股関節が屈曲する程度を評価します(図16)。

図16 腸腰筋の短縮テスト(ThomasテストとThomasテスト変法)
9)より画像引用

正常では、検査側の股関節伸展0°で、オーバープレッシャーをかけると股関節10°まで達する¹⁰⁾とされています(図17、18)。

図17 Thomasテスト変法の正常例

図18 Thomasテスト変法の陽性例(腸腰筋の短縮)

股関節屈曲作用のある筋肉の起始停止(水平断)に着目して運動の軌跡を観察してみましょう(図19、20)。 

図19 Thomasテスト変法における下肢が浮く方向と制限因子(筋原性)の関連

図20 股関節屈曲作用のある筋肉(大腿部の水平断)

🎥実際の評価方法は以下を参考にしてみてください

腹筋群のモーターコントロール評価

椎間関節性腰痛が疑われる後屈動作時痛に対して、ドローイン(腹部引き込み運動)をしながら後屈動作を再度行います(図21)。評価者が徒手で腹部を圧迫して行う方法もあります。

図21 腹筋群のモーターコントロール評価

この操作で動作時の腰部痛が減弱する場合は、腹筋群の弱化やモーターコントロールによる影響を示唆しています。

ドローインが有効な場合は、背臥位でドローインをしながらの体幹屈曲運動などセルフエクササイズに反映することもできます。

下位胸郭拡張制限の治療的評価とエクササイズ

下位胸郭横径不全(Chest gripping)は、上部腹筋群の緊張による下位胸郭拡張制限を指し腰痛の一因となる¹¹⁾とされています。

椎間関節性腰痛が疑われる後屈動作時痛に対して、評価者が徒手で下位胸郭または上腹部を外方へ誘導した状態で再度後屈動作を行います(図22)。

図22 下位胸郭拡張制限の治療的評価

この操作で動作時の腰部痛が減弱する場合は、下位胸郭拡張制限の影響を示唆しています。

🎥下位胸郭拡張機能不全例の後屈動作

正常では、下位胸郭横径が25mm以上開大¹²⁾します。

また、下位胸郭の拡張機能不全に対して、下後鋸筋の賦活を目的としたトレーニングが推奨¹³⁾されています(図23)。

図23 下後鋸筋エクササイズ

上部腹筋群の過緊張に対して、以下のようなリラクゼーションを行う方法があります(図24)。

図24 上部腹筋群のリラクゼーション

分節的脊柱伸展運動の臨床評価

椎間関節性腰痛が疑われる後屈動作時痛に対して、頸椎、胸椎、腰椎の順にできるだけ1つ1つの椎体を動かすように意識しながら再度後屈動作を行います(図25)。

図25 分節的脊柱伸展運動の臨床評価

この操作で動作時の腰部痛が減弱または後屈可動域が増大する場合は、一部の椎間関節への過負荷の影響を示唆しています。

分節的脊柱伸展運動が有効の場合は、腹臥位で分節的脊柱伸展運動を練習する方法があります(図26)。

図26 分節的脊柱伸展運動練習

腰椎伸展動作時痛に対する椎間関節への徒手アプローチ

椎間関節性腰痛が疑われる後屈動作時痛に対して、マリガンのマニュアルセラピー¹⁴⁾に基づく徒手による直接的なアプローチをご紹介します。(ただし、安全性の面から実技指導を事前に受けることを推奨します)

実施手順は以下の通りです(図27)。

図27 マリガンのマニュアルセラピーに基づく椎間関節運動の徒手アプローチ

効果のメカニズムとして、適切な滑りが生じるようになり、疼痛が消失する¹⁵⁾と推察されています。

実施するにあたり、以下のようなポイント注意点が挙げられます(図28)。

図28 椎間関節への徒手アプローチ実施の際のポイントと注意点

腰椎椎間関節症に対する腿上げテスト

腰椎伸展時に腰痛の再現を認める腰椎椎間関節症群57名のうち40名(70.2%) が腿上げテストで腰痛が軽減・消失した¹⁶⁾と報告されています(図29)。

図29 腿上げテスト

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参考・引用文献一覧
1)Neumann, Donald A:筋骨格系のキネシオロジー 原著 第3版.医歯薬出版株式会社, 2012.
2)Augustus A. White III, Manohar M. Panjabi:Clinical biomechanics of the spine second edition.Lippincott Williams & Wilkins,1990 .
3)山下敏彦. 椎間関節性腰痛の基礎. 日本腰痛学会雑誌, 2007, 13.1: 24-30.
4)White, A. A. P. M. "Clinical biomechanics of the spine." Clinical biomechanics of the spine (1990).
5)竹井仁:姿勢の教科書.株式会社ナツメ社,2015.
6)Kalichman, Leonid, and David J. Hunter. "Lumbar facet joint osteoarthritis: a review." Seminars in arthritis and rheumatism. Vol. 37. No. 2. WB Saunders, 2007.
7)Sairyo, K. "Spondylolysis fracture angle in children and adolescents on CT indicates the facture producing force vector: a biomechanical rationale." Internet J. Spine Surg. 1.2 (2005): 2.
8)田口敏彦. 腰椎椎間関節由来の腰痛の病態と治療. 日本腰痛学会雑誌, 2007, 13.1: 31-39.
9)竹中裕人;簡便なトーマステスト変法を用いた成長期スポーツ選手の 腸腰筋柔軟性の特徴.愛知県理学療法学会誌 第29巻 第1号 2017年6月.
10)荒木茂:マッスルインバランスの理学療法.株式会社運動と医学の出版社,2018.
11)中村直樹, et al. "筋電図を用いた下後鋸筋の運動学的役割に関する検証 ケースレポート." ヘルスプロモーション理学療法研究 5.2 (2015): 91-95.
12)平沼憲治,他:コアセラピーの理論と実践.株式会社講談社,2011.
13)青木治人,他:スポーツリハビリテーションの臨床.株式会社メディカル・サイエンス・インターナショナル,2019.
14)Brian R Mulligan:マリガンのマニュアルセラピー 原著第5版.株式会社協同医書出版社,2007.
15)成田崇矢:成田宗矢の臨床 腰痛.株式会社運動と医学の出版社,2023.
16)上原徹, et al. 腰痛治療法判別のための腿挙げテストの有用性. 日本腰痛学会雑誌, 2009, 15.1: 150-156.