肘関節の運動学とアライメント

肘関節の運動学

肘関節運動には、屈曲伸展前腕回内前腕回外があります。

肘関節の運動軸¹⁾

肘関節の屈伸軸は、上腕骨内側滑車を頂点として屈伸運動に伴って円錐状に変化します。矢状面でみると、外側側副靱帯付着部面上に分布します(図1)。

図1 肘関節屈伸の運動軸(右上肢前面)
1)より画像引用

前腕回内・回外運動軸は、尺骨小窩から橈骨頭中心を通過し、尺骨に対して橈骨が一軸性に回転します(図2)。

図2 前腕回内・回外運動軸(右上肢前面)
1)より画像引用

肘関節の関節包内運動(副運動)

肘関節屈曲運動では、尺骨および橈骨は同側方向(近位側)へ転がり運動と滑り運動をしています(図3)。

図3 肘関節屈曲時の腕橈関節および腕尺関節の関節包内運動
(FLEXTION:屈曲、SLIDE:滑り、ROLL:転がり)
2)より画像引用一部改変

前腕回内運動では、近位橈尺関節は、橈骨が回内²⁾しながら前方へ平均1.96mm変位³⁾します(図4)。遠位橈尺関節は、尺骨を軸にしながら橈骨が回内し同側へ転がり運動と滑り運動²⁾を行います。この時、尺骨の遠位は外反・内旋⁴⁾します。

前腕回外運動では、近位橈尺関節は、橈骨が後方(背側)へ移動しながら回外します(図4)。遠位橈尺関節は、尺骨を軸にしながら橈骨が回外し同側へ転がり運動と滑り運動²⁾を行います。

図4 前腕回内/回外運動における近位および遠位橈尺関節の関節包内運動
(PRONATION:回内、SUPINATION:回外、SLIDE:滑り、ROLL:転がり)
2)より画像引用一部改変

MEMO 日常生活に必要な肘関節の可動域
日常生活に支障をきたさない肘関節の可動域は、屈伸30〜130°、回内80°、回外80°¹⁾とされています(諸説あり)。特に前腕回外可動域の保持はADL上重要⁵⁾と言われています。

肘関節のアライメント

肘角(運搬角、キャリングアングル)



肘角とは、上腕長軸と前腕長軸とがなす角度を言います。正常では10〜15°外反しており、これを生理的外反角*と呼びます。しばしば運搬角(キャリングアングル)と同義だとされています。肘の外反角度(肘角)15°以上では、外反肘⁶⁾*と呼ばれます。
✳︎生理的外反角や外反肘の定義は諸説あり。

肘関節の外反が強まると、肘関節外側の圧縮ストレスおよび肘関節内側の伸長ストレスが増大すると考えられています。

臨床では、肘関節痛がある上肢と対側上肢との肘外反角度の左右差を比較することは、障害予測に役立てられます。

Hüter線、Hüter三角⁴⁾⁷⁾⁸⁾

Hüter線とは、肘関節伸展位にて上腕骨外側上顆、上腕骨内側上顆、肘頭を結ぶ一直線のことを言います。

Hüter三角とは、肘関節屈曲位にて上腕骨外側上顆、上腕骨内側上顆、肘頭を結ぶ三角形を言います。正常では、[上腕骨外側上顆〜肘頭]≒[上腕骨内側上顆〜肘頭]の二等辺三角形を保ちます。
[上腕骨内側上顆〜肘頭]の距離が短い場合は、外反傾向にあります。

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参考・引用文献一覧
1)岡久仁洋. 肘関節のバイオメカニクス. The Japanese Journal of Rehabilitation Medicine, 2016, 53.10: 758-761.
2)Neumann, Donald A.:筋骨格系のキネシオロジー 原著第3版. 医歯薬出版株式会社, 2018.
3)市橋則明:身体運動学 関節の制御機構と筋機能.株式会社メディカルビュー社,2017.
4)坂田淳:肘関節理学療法マネジメント 機能障害の原因を探るための臨床思考を紐解く.株式会社メジカルビュー社,2020.
5)村田秀雄. 肘関節の関節可動域と日常生活動作について. リハビリテーション医学, 1977, 14.3: 251-260.
6)工藤慎太郎:運動機能障害の「なぜ?」がわかる評価戦略.株式会社医学書院,2017.
7)林典雄:運動療法のための機能解剖学的触診技術 上肢 改訂第2版.株式会社メジカルビュー社,2011.
8)A.I.KAPANDJI:カパンジー機能解剖学Ⅲ 原著第7版.医歯薬出版株式会社,2019.