歩行と走行における腸腰筋の働き
歩行における腸腰筋の働き
歩行において、腸腰筋全体では足底離地の前にはじまり遊脚初期まで筋活動が続く(立脚期後半〜遊脚期前半)¹⁾ことがわかっています(図1)。
図1 歩行周期における腸腰筋の働き
また、毎秒2m以上の歩行速度になった場合、大腰筋と腸骨筋の活動がそれ以下の歩行速度と比較して急激に大きくなった²⁾³⁾と報告されています。
歩行時の大腰筋と腸骨筋の活動パターンは異なるとされています。
腸骨筋は、主に遊脚初期に筋活動が高まります⁴⁾(図2)。
図2 歩行周期における股関節周囲筋の筋活動
4)より画像引用
一方大腰筋は、1歩行周期の中で筋活動が高まる時期が2回あり、左右下肢の接地のタイミング付近⁵⁾とされています。
大腰筋の椎体領域は、股関節屈曲作用を有することから、立脚期中盤〜後半に下肢をすばやく前方に振り出す役割と遊脚期後半に股関節を屈曲して脚を大きく一歩前へ踏み出す役割をもつ²⁾と考えられています。
大腰筋の横突起領域は、体幹伸展作用を有することから、立脚期中盤〜後半に股関節の伸展中に身体を安定させるとともに、体幹伸展により腰部をすばやく前方に移動させる役割をもつ²⁾と考えられています。
図3 遊脚のための腸腰筋のエネルギー蓄積
6)を参考に作成
歩行における腸腰筋と下腿三頭筋の協調性
歩行における立脚期から遊脚期への移行には、腸腰筋や下腿三頭筋の遠心性収縮から求心性収縮への切り替わりが重要な役割を担っています。
筋骨格系モデルのシミュレーション解析の結果では、歩行時の腸腰筋の張力低下(可能な限り出力0とした)は、小殿筋や大腿直筋とともに腓腹筋に代償された⁸⁾⁹⁾と報告されています。一方で、同研究において腓腹筋の張力低下はヒラメ筋とともに腸腰筋により代償される傾向があるとも報告されています。
つまり、腸腰筋と腓腹筋は筋間の協調関係が示唆され、互いの機能を代償している可能性が挙げられます。
臨床では、例えば立脚後期の問題に対して、一方の筋が過緊張状態なのか、一方の筋力低下があるのかなど、評価の視野を広げるのに役立てられます。