肩関節痛に対する治療的評価法
棘上筋誘導
【方法】
対象者には、一度肩関節挙上運動を行ってもらい肩甲骨運動の軌道を観察しておきます。
次に、検査者は後方に位置し片方の第2〜4指腹を検査側上肢の棘上筋に軽く圧をかけて当て、もう片方の手は肩甲骨の内側縁に当てます。
そして、検査者は棘上筋に触れている指腹で収縮方向に牽引をしながら、対象者には肩関節挙上運動を行ってもらいます。この時、検査者はできるだけ対象者の動きに合わせた操作をして動作の妨げとならないように注意します。
【判定】
肩関節の運動時痛が減弱または消失すれば陽性です。
【解釈】
棘上筋の収縮を誘導することで、挙上運動における上腕骨頭求心位を促し、肩峰下インピンジメントの抑制を図っています。ただし、棘上筋の触察においては皮膚や僧帽筋上部繊維を介している点に考慮する必要があります。つまりは、皮膚運動*や肩甲骨上方回旋運動を同時に促通している影響も考慮し、その後の評価に役立てます。
【こんな症例に試したい】
・肩関節外転運動時痛
・ペインフルアークサイン陽性
臨床実践のポイント 特に肩関節外転運動時に「挙げる途中や腕を下ろす途中が痛いです」と訴えるようなケースは、いわゆるペインフルアークサインの陽性例であり、腱板機能不全を抱えている可能性が高いです。このようなケースで、手技により疼痛の減弱がみられる場合があります。事前に、腱板損傷や断裂、炎症(急性期か)などの医学的所見を把握し、リスク管理には注意しましょう。 |
【補足資料1 棘上筋の起始停止】
棘上筋の触察に自信のない方は、以下を参考にイメージして正確にみてください(図1)。
図1 棘上筋の解剖図
棘上筋の解剖 起始:棘上窩(肩甲棘の上方にある窪み) 停止:大結節(一部は小結節に付着) |
棘上筋の触診ワンポイント 棘上筋は肩甲棘の直上で僧帽筋上部繊維の深層に位置しているため、やや強めに圧をかけることでコリッとした筋腹に触れることができます。 |
【補足資料2 皮膚運動学の概要*】
皮膚運動学は福井勉先生によって提唱されて、その理論や根拠が示されています¹⁾²⁾。皮膚運動には法則性があり、その一つに、皮膚の運動方向は関節の骨運動と連動するというのがあります。具体的には、骨同士が近づく運動では皮膚は関節から遠ざかる方向に動き、骨同士が遠ざかる運動では皮膚は関節に近づく方向に動きます。さらに、回旋運動では、皮膚は骨の動く方向と同じ方向に動きます(図2)。この法則性に基づき、皮膚の運動方向に誘導することは筋収縮を促通すると考えられています。
図2 肩関節外転運動における皮膚の運動方向
【実技解説動画】