歩行の「局所」の実践的なみかたー上半身質量中心と下半身質量中心と身体重心ー
上半身質量中心や下半身質量中心、さらにはその両者を結んだ中点にあたる身体重心を捉えることは、局所(関節)にかかるメカニカルストレスを推察するうえでとても有用です。
上半身質量中心とは、身体重心よりも上部の質量中心であり、第7〜9胸椎の高位に位置しています¹⁾(図1)。
下半身質量中心とは、身体重心よりも下部の質量中心であり、大腿部1/2〜2/3点の間に位置しています¹⁾(図1)。
図1 上半身質量中心、下半身質量中心、身体重心の位置
これらの点は、もちろん実際に目で見えるものではありません。ですが、イメージして捉えることが大切です(なぜ大事かはこの後説明します)。
例えば、下図2のようなスクワット姿勢をみた時に、膝関節に負担がかかるなということは、知識がなくても直感的、経験的にわかると思います。
図2 膝関節への負荷が大きいスクワット姿勢
この図3における上半身質量中心、下半身質量中心、身体重心は以下のような位置関係になります(図3)。
図3 膝関節への負荷が大きいスクワット姿勢
上半身質量中心、下半身質量中心、身体重心の大まかな位置を描出
身体重心から遠くに位置するほど関節モーメント*は大きくなります。
✳︎関節モーメント:関節を回転させる作用。モーメント=力×距離で算出される。臨床視点では体が倒れるのを止める力²⁾と解釈されている。
関節モーメント=身体重心に作用する力(重力)× 関節からの距離です。
そのため図3の例では、身体重心から遠くに位置する膝関節にはより大きな負荷(伸展モーメント)がかかると改めて力学的に捉えることができます(図4)。
図4 身体重心と膝関節中心の距離
関節モーメントの話となると、急に拒否反応が・・・という方もいるかもしれません。
ここでは、難しい話は一旦置いといて、身体重心から遠くなるほど関節への負荷が増大すると簡潔に覚えておきましょう。
力学の基礎ではありますが、歩行分析で局所をみるうえでとても大切です。
では、実際の歩行分析における捉え方を変形性膝関節症(内反変形)を例に確認していきましょう。
膝関節内反変形の症例では、膝関節内側部へのメカニカルストレスを増大させる因子を捉えることは重要です。つまり、外力(床半力または重力)による内反モーメントに着目する視点が大切になります。
💡演習問題💡
Q.右膝関節内側部へのメカニカルストレスが大きい(外力による内反モーメントが大きい)のはAとBどちらでしょうか?