軟部組織とは、生体における骨以外(または心臓含む)の支持組織の総称とされています。
筋肉、靱帯、関節包、筋膜、腱、半月板...
理学療法士がアプローチする対象のかなり多くが軟部組織です。
この軟部組織それぞれの特性を踏まえたリハビリテーションを提案しているのが、
2021年3月に株式会社メジカルビュー社から出版された
新刊『軟部組織損傷・障害の病態とリハビリテーション 組織特性に基づくアプローチ法の構築』です。
今回は、この書籍を実際に読んでみた感想やレビューをしていきます。
書籍の購入を検討されている方のいち参考となれたらと思います!
書籍の目次
まずは、書籍の目次からご紹介📚
Ⅰ 総論
軟部組織損傷・障害のリハビリテーションの考え方 小林 匠・窪田智史
① 運動器リハビリテーションにおける 新たなコンセプト − load vs. capacity モデル −
② 軟部組織損傷・障害治療の基本方針
③ メカノバイオロジー
④ 適切な負荷
⑤ load vs. capacity モデルで紐解く軟部組織損傷・障害
⑥ 組織別治療戦略
Ⅱ 腱
1 基礎科学 窪田智史
① 正常構造
② バイオメカニクス
③ 他の組織との関連
④ まとめ
2 病態と回復過程 窪田智史
① 病態
② 回復過程
③ 回復の促進・阻害因子
④ まとめ
3 腱障害の評価・治療 窪田智史
① 重症度
② 評価のポイント
③ 治療プロトコル・スケジュール
④ 治療のポイント
⑤ リハビリテーションのピットフォール
⑥ まとめ
4-1 ケーススタディ(1) 膝蓋腱障害 窪田智史
① はじめに
② 症例情報
③ 臨床評価
④ 治療
⑤ まとめ
4-2 ケーススタディ(2) アキレス腱症 佐竹勇人・三又淳生
① はじめに
② 症例情報
③ 組織情報
④ 臨床評価
⑤ 治療
⑥まとめ
4-3 ケーススタディ(3) 足底腱膜症 小林佑介
① はじめに
② 症例情報
③ 組織情報
④ 臨床評価
⑤ 治療
⑥ まとめ
Ⅲ 靱帯・関節包
1 基礎科学 飯田尚哉・小林 匠
① 正常構造
② バイオメカニクス
③ 健常者内でのバリエーション
④ 介入による組織の強化
⑤ 他の組織との関連
⑥ まとめ
2 病態と回復過程 飯田尚哉・小林 匠
① 損傷メカニズム,損傷タイプと重症度
② 治癒過程
③ 回復の促進・阻害因子
④ まとめ
3 靱帯障害の評価・治療-関節外靱帯を中心に- 越野裕太
① はじめに
② 重症度
③ 評価のポイント
④ 治療プロトコル・スケジュール
⑤ 治療のポイント
⑥ まとめ
4-1 ケーススタディ(1) 肘内側側副靱帯損傷 坂田 淳
① はじめに
② 症例情報
③ 組織情報
④ 臨床評価
⑤ 治療
⑥ まとめ
4-2 ケーススタディ(2) 膝内側側副靱帯損傷 秋吉直樹
① はじめに
② 症例情報
③ 組織情報
④ 臨床評価
⑤ 治療
⑥ まとめ
Ⅳ 筋
1 基礎科学 永野康治
① 正常構造
② バイオメカニクス
③ 他の組織との関連
④ タイプ分類
⑤ まとめ
2 病態と回復過程 永野康治
① 損傷メカニズム,損傷タイプと重症度
② 回復過程
③ 回復の促進・阻害因子
④ まとめ
3-1 肉ばなれの評価・治療-ハムストリングを中心に- 堤 省吾・松田匠生
① はじめに
② 重症度
③ 評価のポイント
④ 治療プロトコル・スケジュール
⑤ 治療のポイント 221
⑥ リハビリテーションのピットフォール
⑦ まとめ
3-2 腱板断裂の評価・治療 戸田 創
① はじめに
② 損傷タイプ,重症度
③ 評価のポイント
④ 治療プロトコル・スケジュール
⑤ 治療のポイント
⑥ リハビリテーションのピットフォール
⑦ まとめ
4-1 ケーススタディ(1) ハムストリングス肉ばなれ 堤 省吾・松田匠生
① はじめに
症例(1)
症例(2)
4-2 ケーススタディ(2) 腱板断裂-保存療法- 伊藤 雄
① はじめに
症例(1)
症例(2)
Ⅴ 半月板・関節唇
1 基礎科学 坂 雅之
① 正常構造
② バイオメカニクス
③ パターン分類と解剖学的変異
④ まとめ
2 病態と回復過程 坂 雅之
① 損傷タイプと重症度
② 損傷メカニズム
③ 治癒過程
④ 回復の促進・阻害因子
⑤ まとめ
3-1 関節唇損傷の評価・治療 穐山大輝・村田健一朗
① はじめに
② 病態評価
③ 機能的臨床評価
④ 治療プロトコル・スケジュール
⑤ まとめ
3-2 半月板損傷の評価・治療 石田知也
① はじめに
② 損傷タイプ,重症度
③ 評価のポイント
④ 治療プロトコル・スケジュール
⑤ 治療のポイント
⑥ リハビリテーションのピットフォール
⑦ まとめ
4 ケーススタディ 半月板損傷-保存療法- 三上兼太朗・石田知也
① はじめに
症例(1)
症例(2)
Ⅵ 滑液包・骨膜
1 基礎科学 榊 善成
滑液包
① 正常構造
② バイオメカニクス
③ 他の組織との関連
④ まとめ
骨膜
⑤ 正常構造
⑥ バイオメカニクス
⑦ まとめ
2 病態と回復過程 榊 善成
滑液包
① 障害メカニズム,障害部位
② 回復過程
③ まとめ
骨膜
④ 病態,障害部位
⑤ 回復過程
⑥ 回復の促進・阻害因子
⑦ まとめ
3-1 滑液包障害の評価・治療 阿久澤 弘
① 損傷タイプ,重症度
② 評価のポイント
③ 治療プロトコル・スケジュール
④ 治療のポイント
⑤ リハビリテーションのピットフォール
⑥ まとめ
3-2 骨膜障害の評価・治療 伊藤 渉・小林 匠
① はじめに
② 病態
③ 評価のポイント
④ 治療プロトコル・スケジュール
⑤ 治療のポイント
⑥ リハビリテーションのピットフォール
⑦ まとめ
4 ケーススタディ シンスプリント 奥貫拓実・熊井 司
① はじめに
② 症例情報
③ 組織情報
④ 臨床評価
⑤ 治療
⑥ まとめ
Ⅶ 軟骨
1 基礎科学 生田 太・高橋謙治
① 正常構造
② バイオメカニクス
③ パターン分類
④ まとめ
2 病態と回復過程 生田 太・高橋謙治
① 損傷メカニズム,損傷タイプと重症度
② 治癒過程
③ まとめ
3 軟骨損傷の評価・治療 矢口春木・石川博明
① 損傷タイプ,重症度の評価方法
② 評価のポイント
③ 治療プロトコル・スケジュール
④ 治療のポイント 521
⑤ まとめ
4 ケーススタディ 肘離断性骨軟骨炎 石川博明
① はじめに
② 症例情報
③ 組織情報
④ 臨床評価
⑤ 治療
⑥ まとめ
Ⅷ 筋膜
1 基礎科学 須賀康平・小林 匠
① 正常構造
② バイオメカニクス
③ 他の組織との関連
④ まとめ
2 病態と回復過程 須賀康平・小林 匠
① 障害メカニズムと病態
② 回復過程
③ 回復の促進・阻害因子
④ 臨床応用(超音波所見と疾患との関連)
⑤ まとめ
Ⅸ 皮膚・皮下組織
1 基礎科学 村田健一朗
① 正常構造
② バイオメカニクス
③ 分類
④ まとめ
2 病態と回復過程 村田健一朗
① 損傷メカニズム,損傷タイプと重症度
② 治癒過程
③ 治癒の促進・阻害因子
④ まとめ
以上、株式会社メジカルビュー社の購入リンクから引用
まず驚くべきは、総数672ページとかなりのボリューム!
軟部組織それぞれの解剖・生理学的な特徴から評価・リハビリまでをケーススタディを交えながら記載されています。
実際に読んでみた感想とレビュー
私が「Ⅱ腱」の項目(108/672ページ)までを読んでみて実際に感じたこと、学びとなったことを率直にご紹介します。
- 軟部組織の新たな治療方針『PEACE and LOVE』
- 組織ごとにみる負荷(load)と負荷耐容能(capacity)
- 臨床でよく遭遇する軟部組織の問題とその原因がわかりやすく提示されている
- エビデンスをもとにした治療プログラム、プロトコールがとにかく具体的
- 『MEMO』にこそ臨床に役立つ情報が詰まっている[/st-cmemo]
- 軟部組織の新たな治療方針『PEACE and LOVE』
軟部組織の急性外傷時の応急処置として、RICEやPRICEは一般にも広く知られています。
2012年には、R(安静)を適切な負荷(optimal loading)に置き換えたPOLICEが提唱されました。
ここまでは知っている方も比較的多いかと思いますが、
なんと2020年、Duboisらによって新たに「PEACE and LOVE」という概念が提唱されたというのです!
これまでの概念が急性期治療に限定されていたのに対し、PEACE and Loveは亜急性期から慢性期の対応までを含みます。
急性期までがPEACE(患部保護、挙上、抗炎症を控える、圧迫、患者教育)、亜急性期以降がLOVE(力学的負荷、悲観的にならない、血行改善、エクササイズ)です。
(詳細は書籍参照)
エビデンスを主体とした概念であり、知らなかった方はこの概念を学ぶだけでも勉強になると思います。(私は知らなかった!)
- 組織ごとにみる負荷(load)と負荷耐容能(capacity)
本書では、運動期リハビリテーションにおける新たなコンセプトが提唱されています。
従来の、組織の病変や異常関節運動だけでは痛みの原因を説明しきれず限界があるというのを提示したうえで、
どの組織にも、日常生活やスポーツを通じてかかる負荷に痛みや障害を伴わずに耐えられる範囲がある
というのが「load vs. capacityモデル」だそうです。
これは、整形領域に携わる理学療法士は、”なんとなく経験的に感じていること”ではないでしょうか?
私はそうでした。普段の臨床において、「痛みが強まらない範囲で、でも負荷は少しずつかけていきたい」というこの思考はまさに「load vs. capacityモデル」に則っているなと感じました。
負荷と組織の持つ負荷耐用能のバランスを考えるリハビリテーションが理学療法士には求められるのではないかと改めて感じました。
なんとここまでで、まだたったの5ページ!
以降の項目では、各軟部組織の解剖学や生理学、病態とその原因因子、ケーススタディによる具体的リハビリアプローチの紹介がされています。
- 臨床でよく遭遇する軟部組織の問題とその原因がわかりやすく提示されている
例えば、以下は主な腱障害と関連する関節アライメント異常を示した表になります。
主な腱障害と関連する関節アライメント異常
熊井司,他:軟部組織損傷・障害の病態とリハビリテーション 組織特性に基づくアプローチ法の構築より画像引用
このような、臨床でよく遭遇する軟部組織の障害とその原因因子についての情報が、一目で確認できるような形で紹介されています。
(これはめちゃくちゃありがたい!)
軟部組織の障害に対して、どこに着目すべきかのヒント💡がとても多く載っています。
- エビデンスをもとにした治療プログラム、プロトコールがとにかく具体的
例えば、腱障害のステージ2(低速高重量エクササイズ期)では、
「求心性収縮○秒、遠心性収縮○秒程度をかけて行いましょう」
「実施頻度は○日おきとし、1日あたりり○回×○セットを目安に行いましょう」
といった具体的な治療プログラムが、エビデンスをもとにした理由を添えて記載されています!
(ここまで詳細に提示するにはかなりの調査が必要のはず😲!)
どんな方にオススメの書籍か?
どんな方がこの書籍を読むべきか?についてですが、以下に一つでも当てはまる方には、特にオススメです。
アプローチのために触れているその組織が筋肉なのか、靱帯なのか、腱なのか、半月板なのか、どの軟部組織かをしっかりと認知したうえで、
その組織の特性を考慮したアプローチを展開できることで、臨床力をグッと上げられるのではないでしょうか。
この書籍を読むべき理由がここにあります。
今回の記事を読んで、書籍に興味を持たれた方はぜひ一度書店で実際に手に取ってみてください。
私もまだ読んでいないページが550ページほど残っていますので、ゆっくり熟読しながら臨床に生かしていきたいと思います✨
※『軟部組織損傷・障害の病態とリハビリテーション 組織特性に基づくアプローチ法の構築』をご献本いただいた株式会社メディカルビュー社様へ深くお礼申し上げます。臨床力を高める素敵な一冊に出会わせていただきました。
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