脳卒中リハビリに携わるような理学療法士であれば必ず一度は学ぶことと思います。
神経伝導路には、運動性(下行性)伝導路と感覚性(上行性)伝導路の2種類あります。
今回はこのうちの、人の体を動かす10個の神経系伝導路(運動性伝導路)の概要をご紹介します。
臨床応用に向けて、まずは基礎知識を学んでいきましょう💪✨
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運動性(下行性)伝導路
運動性伝導路とは、運動制御に関する大脳皮質からの命令をそれらが支配する効果器に下行して伝える経路です。
脊髄内の経路から腹内側系と背外側系へさらに分類されます。
1.腹内側系の運動性伝導路
両側の頭・頸部,体幹,上下肢の近位筋の運動を支配します。
橋・延髄網様体脊髄路、内・外側前庭脊髄路、視蓋脊髄路、間質核脊髄路、前皮質脊髄路(錐体路系)が挙げられます。
①橋網様体脊髄路(図1)
橋の網様体から同側性に下降する経路が80%、両側性に下降する経路が20%あります。
【役割】体幹と両上下肢近位筋の協調的な運動や姿勢を制御する.腹内側系の中でも特に重要とされ、コア・コントロール(体幹における協調的な運動や姿勢制御)にはたらきます。
②延髄網様体脊髄路(図1)
延髄の網様体から下行します。対側への交叉繊維が多く、一部非交叉します。
【役割】四肢の近位部から遠位部に作用し、脊髄レベルで歩行のCPG(セントラルパターンジェネレーター)や上肢のリーチ動作に関与します。
図1 橋・延髄網様体伝導路
③内側前庭脊髄路(図2)
延髄の前庭神経内側核から頸髄、上部脊髄へ両側性に下行し前角運動ニューロンに繋がります。
【役割】頚部や上部胸郭、肩甲帯を支配し、平衡機能に関与します。身体のバランスが崩れると反射的にバランスを回復させるような身体反射(前庭脊髄反射)を誘導します。
④外側前庭脊髄路(図2)
延髄の前庭神経外側核から同側性に頸髄から下部脊髄へと前索を下行し、脊髄内側介在ニューロンに繋がります。
【役割】主に同側上下肢の伸筋群の緊張を増加させて平衡機能に関与します。身体のバランスが崩れると反射的にバランスを回復させるような身体反射(前庭脊髄反射)を誘導します。
図2 内・外側前庭脊髄路
⑤視蓋脊髄路(図3)
中脳の上丘から起こり、対側へ交叉して脊髄前索を下降し、前角運動ニューロンにつながります。非交叉繊維は少ないです。
【役割】明るい光や急激な運動、あるいは大きな音に反応して、眼球、頭頚部、上肢の位置を不随意的にコントロールします。
図3 視蓋脊髄路
⑥間質核脊髄路
中脳被蓋内の間質核から、内側縦束を同側性に下行します。
【役割】頭頸部のコントロールや眼球の速い垂直運動を調整します。
⑦青斑核脊髄路
橋の青班核および青班下核から両側性に下行します。交叉は脊髄レベルでみられます。
【役割】四肢伸筋群の伸張反射を興奮させ、姿勢筋緊張を増強します。
⑧前皮質脊髄路(錐体路系,図4)
中心前回から内方を通り、錐体で交叉せず(同側性)に脊髄前索を下行し前角運動ニューロンに繋がります。脊髄レベルで一部対側へ交叉します。皮質脊髄路のうち5~10%を占めます。
【役割】体幹筋と上下肢の近位筋を両側性にコントロールします。
図4 前皮質脊髄路
2.背外側系の運動性伝導路
四肢の近位と遠位の運動をコントロールします。外側皮質脊髄路(錐体路系)と赤核脊髄路が挙げられます。
①外側皮質脊髄路(錐体路系,図5)
中心前回から内方を通り、錐体で対側へ交叉して脊髄側索を下行し前角運動ニューロンに繋がります。一部は交叉せずに下行します。皮質脊髄路のうち90~95%を占めます。
【役割】四肢(主に対側の上下肢)の筋肉の随意運動を支配します。屈筋運動細胞を興奮させるとともに、巧緻運動時の拮抗抑制、手指の緊張力の調整、手指の屈曲動作を円滑に遂行させます。
図5 外側皮質脊髄路
②赤核脊髄路(図6)
中脳の赤核から対側の脊髄側索の背側部を下行します。
【役割】四肢の運動調整や筋張力を維持します。
図6 赤核脊髄路
神経伝導路の臨床応用に向けて
神経伝導路の知識は、運動機能・能力低下の原因を臨床推論するのに役立ちます。
例えば、体幹深部筋の活動不全(弱化)の背景には、筋力低下だけではなく、同側の橋延髄網様体脊髄路の不活性化が問題となっている可能性が挙げられます。
この例では、単に筋収縮のトレーニングを行うのではなく、コアコントロールの練習が必要となります。セラピストはハンドリングによる誘導や神経学的な促通を行って、感覚情報の入力から橋延髄網様体脊髄路の活性化を促すことが求められます。
ちなみに、脳卒中症例の体幹機能評価には、Trunk Impairment Scale(TIS)が信頼性や妥当性のある評価表として用いられます。
特に脳血管障害では、神経伝導路の問題が大きく機能・能力低下に関与するため、脳卒中患者のリハビリを担当するようなセラピストは、確実に神経伝導路の知識を定着させましょう。
また脳画像所見で推測される神経伝導路の障害と実際の臨床所見を照らし合わせることで、より質の高い評価や臨床推論を行うことができます。
参考・引用文献
1)高草木薫. 大脳基底核による運動の制御. 臨床神経学, 2009, 49.6: 325-334.
2)高草木薫. ニューロリハビリテーションにおけるサイエンス-臨床と研究の進歩 運動麻痺と皮質網様体投射. 脊椎脊髄ジャーナル, 2014, 27.2: 99-105.
3)SHINODA, Yoshikazu, et al. Long descending motor tract axons and their control of neck and axial muscles. Progress in brain research, 2006, 151: 527-563.
4)MARTINI, F. H.; MCKINLEY, M. P.; TIMMONS, M. J. 井上貴央 (訳): カラー人体解剖学—構造と機能: ミクロからマクロまで. 2003.
5)KANDEL, Eric R.; SCHWARTZ, James Harris; JESSELL, Thomas M. カンデル神経科学. メディカル・サイエンス・インターナショナル, 2014.
6)奈良 勲,内山 靖(編):姿勢調節障害の理学療法 第 2 版.医歯薬出版,2012.
7)古澤正道:脳血管障害をみるための運動性伝導路の基礎知識.運動と医学の出版社,2013.
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