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股関節の靭帯
股関節の関節包を補強する靭帯には、腸骨大腿靱帯、恥骨大腿靱帯、坐骨大腿靱帯があります(図1)。

図1 股関節の関節包を補強する靱帯
腸骨大腿靱帯(図2)は、下前腸骨棘と寛骨臼上縁から起始し、大転子に付着する横走繊維(上部繊維)と転子間線に付着する縦走繊維(下部繊維)に別れて逆Y字形をなしています¹⁾。関節方の前方を補強し、大腿骨頭の前方変位を制動しています²⁾。腸骨大腿靱帯は股関節伸展・外旋・内転位で伸長されます。繊維ごとでは、横走繊維(上部繊維)は、股関節内転10-20°かつ最大外旋、縦走繊維(下部繊維)は、股関節最大伸展または外旋20°かつ伸展で伸長される³⁾とされています。

図2 腸骨大腿靱帯
恥骨大腿靱帯(図3)は、腸恥隆起の前面内側および恥骨上枝から起始し、転子窩前面外側に付着します¹⁾。関節方の下方を補強します²⁾。恥骨大腿靱帯は、股関節の伸展・外旋・外転位で伸長されます。より詳細には、股関節最大外転または外旋10-30°かつ外転で伸張される⁴⁾とされます。

図3 恥骨大腿靱帯
坐骨大腿靱帯(図4)は、寛骨臼後下面から広く起始し、外前方に向かって捻れつつ転子窩に付着します¹⁾。関節方の後方を補強します²⁾。坐骨大腿靱帯は、股関節屈曲または伸展・内旋位で伸長されます。より詳細には、股関節外転10-20°かつ内旋で伸張される⁴⁾とされます。

図4 坐骨大腿靭帯
大腿骨頭靱帯(円靱帯、図5)は、寛骨臼切痕および寛骨臼横靱帯より起始し、大腿骨頭窩に付着する約3cmの扁平な靱帯であり、幼少期に大腿骨頭へと動脈を導く¹⁾とされます。
また、大腿骨頭靱帯の切離により股関節90°および120°での内旋外旋のROMが増加した⁵⁾との報告があります。これを踏まえ、股関節のsuction sealを維持するために重要な役割を果たしており、股関節が中間位または伸展位にあるときに最も顕著であるされます。

図5 大腿骨頭靱帯
輪帯(zona orbicularis、図6、7)は、従来、股関節包の内部にある輪状線維であり、大腿骨頭の牽引に対する股関節の安定性に不可欠な構造だとされてきたが、2021年の解剖調査では、股関節の動き(伸展)によって関節包が動的に変化して生じる内側への突出部である⁶⁾とされています。
役割としては、関節包が大腿骨頚を締め付けるように作用することで、股関節の牽引に対する安定性に寄与し、関節唇を押さえつけ、股関節のsuction sealを助ける可能性がある⁶⁾とされています。

図6 輪帯

図7 輪帯の役割
股関節を制動する靭帯に付着する筋肉
股関節前面は4層構造⁷⁾となっています(図8)。

図8 股関節前面の4層構造
第1層(筋層)には、大腿直筋(直頭・反回頭)があります。
第2層(筋層)には、腸腰筋、Iliocapsularisがあります。
第3層(関節包層)には、腸骨大腿靱帯・恥骨大腿靱帯があります。
第4層(関節包層)には、Weitbrecht支帯(血管を含む)があります。
大腿直筋には、直頭、反回頭、Third headの3つの起始が存在します(図9)。

図9 大腿直筋の3つの起始
直頭は、前下腸骨棘(AIIS)から起始します。
反回頭は、寛骨臼の上縁から起始します。
Third headは、83%存在する⁸⁾と報告されており、浅部は小殿筋腱と合流し大転子前面に付着し、深部は腸骨大腿靱帯に付着します。
また、腸骨大腿靱帯は、小殿筋腱および腸腰筋深腱膜と連続⁹⁾しています(図10)。

図10 腸骨大腿靱帯と小殿筋腱および腸腰筋深腱膜との連続
これにより、腸骨大腿靱帯は単なる静的な靱帯ではなく筋活動と連動して股関節を安定化させる⁹⁾とされます。
寛骨臼関節唇
寛骨臼関節唇(acetabular labrum)は、寛骨臼縁に付着している線維軟骨と高密度の結合組織でできたリング状の組織で、前方部は幅が広く薄いのに対し、後方部は厚い¹⁰⁾¹¹⁾です(図11)。

図11 寛骨臼関節唇(acetabular labrum)
寛骨臼関節唇の機能には、関節の安定化、荷重分散、関節のsealing(密閉)機能、感覚機能が挙げられています。
関節の安定化について、臼蓋を約21%深くすることで股関節の安定性を高める¹¹⁾と報告されています。
荷重分散について、臼蓋の表面積を約28%増加させる関節唇の断裂で接地面積が減少すると関節軟骨へのストレスが増加し損傷する¹⁰⁾とされています。
関節のsealing(密閉)機能について、関節唇は関節を密閉する役割を果たし関節内の滑液を関節軟骨内に保持するとされています。
関節唇を切除すると接触ストレスが最大92%増加し、大腿骨と臼蓋が接近する速度が最大40%増加する¹⁰⁾と報告されています。
感覚機能について、自由神経終末や感覚神経終末器官が豊富に存在します。
臼蓋関節唇が大腿骨頭に密着することで生じる関節内の陰圧(真空)による密閉効果はsuction seal(またはsuction機能とsealing機能、図12)¹⁰⁾¹¹⁾¹²⁾¹³⁾¹⁴⁾と呼ばれます。

図12 suction seal
sealing(密閉)機能は、大腿骨頭に密着し関節内を物理的に密閉する働きを指します。
suction(吸着)機能は、腿骨頭と臼蓋間への牽引力に対して抵抗する働きを指し、sealingによる陰圧で生まれる効果とされています。
参考・引用文献一覧
1)熊谷匡晃:股関節拘縮の評価と運動療法 第1版.株式会社運動と医学の出版社,2019.
2)市橋則明:身体運動学 関節の制御機構と筋機能.株式会社メジカルビュー社 第1版,2017.
3)Hidaka, Egi, et al. "Evaluation of stretching position by measurement of strain on the ilio-femoral ligaments: an in vitro simulation using trans-lumbar cadaver specimens." Manual Therapy 14.4 (2009): 427-432
4)Hidaka, Egi, et al. "Ligament strain on the iliofemoral, pubofemoral, and ischiofemoral ligaments in cadaver specimens: biomechanical measurement and anatomical observation." Clinical Anatomy 27.7 (2014): 1068-1075.
5)Martin, Hal D., et al. "Function of the ligamentum teres in limiting hip rotation: a cadaveric study." Arthroscopy: The Journal of Arthroscopic & Related Surgery 30.9 (2014): 1085-1091.
6)Tsutsumi, Masahiro, et al. "Dynamic changes of the joint capsule in relation to the zona orbicularis: An anatomical study with possible implications for hip stability mechanism." Clinical Anatomy 34.8 (2021): 1157-1164.
7)Benes, Michal, et al. "Surgical anatomy of the anterior musculocapsular complex of the hip: a macroscopic and microscopic anatomical reappraisal." Anatomy & Cell Biology58.2 (2025): 155.
8)Tubbs, R. S., et al. "Does a third head of the rectus femoris muscle exist?." Folia Morphologica 65.4 (2006): 377-380.
9)Tsutsumi, Masahiro, Akimoto Nimura, and Keiichi Akita. "New insight into the iliofemoral ligament based on the anatomical study of the hip joint capsule." Journal of Anatomy 236.5 (2020): 946-953.
10)Hunt, Devyani, John Clohisy, and Heidi Prather. "Acetabular labral tears of the hip in women." Physical Medicine and Rehabilitation Clinics of North America 18.3 (2007): 497-520.
11)Lewis, Cara L., and Shirley A. Sahrmann. "Acetabular labral tears." Physical therapy 86.1 (2006): 110-121.
12)Bsat, S., et al. "The Acetabular Labrum: A Review of Its Function." The Bone & Joint Journal, vol. 98-B, no. 6, 2016, pp. 730-35.
13)Lee, Jessica H., et al. "A Technique for Optimizing Hip Labrum Suction Seal With a Double-Limb, Oblique Inverting Mattress Stitch: The “X” and the “M” Configurations." Arthroscopy Techniques, vol. 11, no. 10, 2022, pp. e1711-17.
14)Storaci, Hunter W., et al. "The Hip Suction Seal, Part I: The Role of Acetabular Labral Height on Hip Distractive Stability." The American Journal of Sports Medicine, vol. 48, no. 11, 2020, pp. 2726-32.