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腹骨盤腔(abdominopelvic cavity)
腹骨盤腔(abdominopelvic cavity)は、胸腔の横隔膜と骨盤底筋群の間にあり、腹腔と骨盤腔という2つの連続した腔からなります。
腹腔をつなぎ内臓を覆っているのは壁側腹膜と臓側腹膜になります¹⁾(図1)。

図1 腹腔内の解剖
2)より画像引用
腹部領域
腹部は、臍部を通る水平および垂直な仮想線による4領域や上・中・下ならびに右・中央・左に分けた9領域で表現される¹⁾ことがあります(図2)。

図2 腹部4領域および9領域
腹部4領域では、右上腹部(RUQ)、左上腹部(LUQ)、左下腹部(LLQ)、右下腹部(RLQ)に分けられます(図3)。

図3 腹部4領域に位置する臓器
右上腹部(RUQ)には、肝臓、胆嚢、幽門部、十二指腸、大腸肝弯曲部、膵頭部が位置します。
左上腹部(LUQ)には、脾臓、大腸脾弯曲部、胃、膵体尾部が位置します。
左下腹部(LLQ)には、S状結腸、下行結腸、左卵巣が位置します。
右下腹部(RLQ)には、盲腸、虫垂、上行結腸、回腸末端、右卵巣が位置します。
腹部9領域では、各領域内でみられる疼痛に関して、その原因が挙げられています³⁾⁴⁾(図4)。

図4 腹部9領域の痛みと原因
3)4)を参考に作成
肝臓
肝臓の解剖と機能⁵⁾⁶⁾
肝臓(図5)は、右葉と左葉に分かれています。人体で最も大きな内臓とされ、その重量は約1.5kgとされています。

図5 肝臓
肝臓の主な機能には、以下が挙げられています。
・代謝調節:吸収された栄養分や有害物は全身の血流に入る前に肝臓でこしとられる ・血液調節:最も大きな血液貯蔵庫、心拍出量の25%を受ける ・胆汁の合成と分泌:胆汁は肝細胞で合成され、胆嚢に貯蔵され十二指腸に注ぐ |
肝臓は、腹腔動脈の固有肝動脈から血液供給を受け、T7-10から出て大内臓神経と小内臓神経を経由する交感神経系による支配を受けます。
肝臓の運動と症状⁶⁾
肝臓は、息を吸う時、横隔膜が肝臓の外側部を下方内側に導く(反時計回り)(前額面)とされます(図6)。

図6 呼吸に伴う肝臓の運動(移動)方向
6)を参考に作成
医学的な診断を要する症状には、黄疸、上腹部の不調を繰り返す、原因不明の発熱、急性炎症、悪液質が挙げられています。
オステオパシー医療の主症状には、疲労と黄疸が挙げられています。
肝臓の触診⁷⁾
肝臓は、呼気のタイミングで右胸郭下部に人差し指と中指を深く沈み込ませるように触診を行います(図7)。

図7 肝臓の触診
(a.呼気、b.吸気)
7)より画像引用
正常な肝臓は右胸郭に隠れており触知できず、小児、横隔膜の低下、大きな尾状葉やリーデル葉の存在、痩せ型で胸郭が細い体系では触知できる場合があるとされています。
病的な肝臓を触知する病態には、肪肝、活動性肝炎、肝硬変、悪性腫瘍、右心不全による肝うっ血などが挙げられています。
また、心窩部で肝臓を触知できることは、肝硬変を示唆する最も感度の高い身体所見である⁸⁾との報告や、肝臓の硬度が高いほど肝硬変の可能性が高くなる⁹⁾との報告があります。
胆嚢
胆嚢の解剖と機能⁵⁾⁶⁾
胆嚢(図8)は、肝臓右葉の下面にあるくぼみにはまっています。大きさは、長さ8〜12cm、幅4〜5cmとされています。

図8 胆嚢
胆嚢の主な機能には、胆汁の貯蓄と装飾が挙げられています。
胆嚢は、固有肝動脈の胆嚢動脈から血液供給を受け、T7-10から出て大内臓神経と小内臓神経を経由する交感神経系、迷走神経、横隔神経知覚枝による支配を受けます。
胆嚢の触診
臍から右乳頭または右鎖骨中点を結ぶ補助線を引いた時、胆嚢底部は、この線が右肋骨弓下部と交差する点(マーフィー点)で触れることができます⁶⁾(図9)。

図9 マーフィー点
背臥位で右肋骨弓の下の胆嚢があるあたりを押し、息を深く吸い込む時に、明らかな圧痛を引き出すことができ、患者が息を止めた場合に陽性となる所見は、マーフィー徴候と呼ばれます(図10)。急性胆嚢炎で最も感度が高い(感度97%)⁶⁾とされています。

図10 マーフィー徴候
10)より画像引用
妊娠中の急性胆嚢炎にみられる疼痛分布には、様々なパターンが挙げられています(図11)。

図11 妊娠中の急性胆嚢炎にみられる疼痛分布のバリエーション
11)より画像引用
❶右季肋部に典型的に出現する痛み(Murphy徴候陽性): 急性胆嚢炎の最も典型的部位。 ❷右季肋部から心窩部へ痛みが移動する: 胆嚢頸部や胆管の炎症が広がり、胃・十二指腸領域の内臓知覚と重なると、痛みが心窩部に感じられる。 ❸右季肋部から腰部へ痛みが移動する: 胆嚢周囲の炎症が後腹膜や肝被膜を刺激し脊髄後枝を介して腰背部へ放散痛を起こす。 ❹右季肋部から右肩へ痛みが移動する: 横隔膜を走る横隔神経(C3–C5)の求心線維が頚椎領域の皮膚領域と交差するため、刺激が肩(三角筋部)に投射される「関連痛」。 ❺腹部全体にびまん性に痛みが広がる非典型的な部位: 妊娠後期では子宮増大や内臓位置変化で胆嚢が高位に押し上げられ痛みが局在せず軽度・拡散的となり誤診の原因になる。 |
胃
胃の解剖と機能⁵⁾⁶⁾
胃(図12)は、第7胸椎から第3腰椎の間に収まるとされます。大きさは、長さ8〜12cm、幅4〜5cmとされています。

図12 胃
胃の主な機能には、摂取した食物を貯蔵、食物を機械的に分解、酸と酵素で化学的に消化が挙げられています。
胃は、胃動脈、胃大網動脈、胃十二指腸動脈から血液供給を受け、T6-9から出て大内臓神経と小内臓神経を経由する交感神経系、迷走神経による支配を受けます。
胃の症状⁶⁾
医学的な診断を要する症状には、タール状の便(黒い便)、腹膜炎の徴候、食物を接種した時に悪化、または改善する上腹部の痛み、左鎖骨の内側端のリンパ節を触診できる(ウィルヒョー結節、胃癌転移など)挙げられています。
オスエテオパシー医療の主症状には、ウィルヒョー結節(左鎖骨内側端の上)、食後数分で生じる痛みが挙げられています。
胃の位置と触診
胃の幽門部(図13)は、通常、胃が空の時は臍上方約6〜7cmに位置し収縮時には正中線を左から右へ越える、患者が起立すると正常で2〜3cm下がる¹²⁾とされています。

図13 胃の幽門部の位置
上部胃底の触診⁶⁾は、患者を座位で後弯姿勢にして行います。患者の後方に立ち、指の尺側を直接剣状突起下方3〜4cm、肋骨縁下1横指の部位に当てます。右側臥位で左鎖骨中点ー臍点線上の肋骨縁に当てる方法もあります。
脾臓
脾臓の解剖と機能⁵⁾⁶⁾
脾臓(図14)は、体内で最も大きなリンパ器官とされ、左第9〜11肋骨の高さにあります。大きさは、長さ10〜12cm、幅6〜7cm、厚さ3〜4cmとされています。

図14 脾臓
脾臓の主な機能には、異常な血液細胞や成分を除去、赤血球の鉄を貯蔵する、循環血液中の抗原に対してB細胞とT細胞が免疫応答が挙げられています。
脾臓は、脾動脈から血液供給を受け、T5-9から出て大内臓神経を経由し腹腔神経叢、迷走神経による支配を受けます。
脾臓の症状⁶⁾
医学的な診断を要する症状およびオスエテオパシー医療の主症状には、巨脾腫(肥大した脾臓)が挙げられています。
脾臓の打診
正常な脾臓は触診できず、健常で触れられるのは約5%¹⁾とされています。
【トラウべの三角⁷⁾(トラウべ法、図15)】
左の肋骨弓と第6肋骨、左前腋窩線で囲まれた範囲で、脾腫があるとこの範囲の打診は濁音になります。

図15 トラウべの三角
7)より画像引用
【キャステル法⁷⁾(図16)】
仰臥位で左前腋窩線の最も低い肋間(通常は第8か第9肋間)を打診し、呼気の状態から深吸気させたときに、鼓音から濁音へ変化するなら脾腫を疑います。

図16 キャステル法の打診点
7)より画像引用
【第6肋骨の触診位置】
第6肋骨は剣状突起の高さで外側に指を移動させることで触れることができます(図17)。
※剣状突起と胸骨体の境界のすぐ外側では、第7胸肋関節があります。

図17 第6肋骨の触診位置
腎臓
腎臓の解剖と機能⁵⁾⁶⁾
腎臓(図18)は、右腎と左腎があり、右腎は左腎より1〜1.5cm低いとされます。大きさは、長さ12cm、幅7cm、厚さ3cmとされています。

図18 腎臓
腎臓の主な機能には、尿の生成、ホルモンの生成と分解が挙げられています。
腎臓は、腎動脈から血液供給を受け、T10-L1から出る交感神経系から小内臓神経などを経由し腹腔神経叢、迷走神経による支配を受けます。
腎臓の症状⁶⁾
医学的な診断を要する症状およびオスエテオパシー医療の主症状には、腎臓がある領域を叩打した時に生じる痛みと血尿が挙げられています。
腎臓と筋・筋膜連結(図19)¹³⁾

図19 腎臓と横隔膜、大腰筋および腰方形筋の位置関係
(Diaphragm:横隔膜、Left kidney:左腎臓、Right kidney:右腎臓、Renal vessels:腎血管、Quadratus lumborum:腰方形筋、Sacropsinalis:脊柱起立筋、Descending colon:下行結腸、Ascending colon:上行結腸、Iliac crest:腸骨稜、Pleura:胸膜、12th rib:第12肋骨)
13)より画像引用
腎臓は、横隔膜の筋膜と結合しています。呼吸運動により腎臓が上下に動くために重要とされています。
大腰筋は、腎臓の内側に位置し、腎臓の位置を安定させる役割を果たします。大腰筋の筋膜は腎臓の周囲の脂肪組織と結合しています。
腰方形筋は、腎臓の外側に位置し、腎臓の支持と安定に寄与しています。腰方形筋の筋膜も腎臓の周囲の結合組織と連結しています。
腎臓の打診¹⁾
第12肋骨の下縁と脊柱(胸椎・腰椎の棘突起線)がつくる鋭角は、肋骨脊柱角と呼ばれます(図20)。

図20 肋骨脊柱角
1)より画像引用
胸骨脊柱角上で叩打痛を評価します。圧痛や叩打痛があり、発熱や排尿障害を伴う場合は腎網腎炎を示唆するが、筋骨格系が原因の場合もあるとされます(図21)。

図21 胸骨脊柱角上での叩打痛評価
1)より画像引用
【第11、12肋骨の触診位置(図22)】
第11肋骨は、腸骨稜から上方に指を移動させることで触れることができます。第11肋骨の先端部は胸郭前後径の2等分線より前方にあり、第12肋骨の先端部は後方にあります¹⁴⁾。

図22 第11、12肋骨の触診位置
急性虫垂炎の圧痛点
急性虫垂炎の圧痛点には、マクバーニー点とランツ点が挙げられます。
マクバーニー点¹⁾は、右上前腸骨棘と臍を結ぶ線を3等分し、右から1/3に位置します(図23)。

図23 マクバーニー点
1)より画像引用
ランツ点⁷⁾は、右上前腸骨棘と左上前腸骨棘を結ぶ線を3等分し右から1/3に位置します(図24)。

図24 ランツ点
1)より画像引用
腸腰筋試験
腸腰筋試験には、側臥位でのテストと仰臥位でのテストがあります。
側臥位でのテスト⁷⁾では、痛みがある側を上にし、検査者は患側の下肢の股関節を支点として大腿を過伸展させます(図25)。

図25 側臥位でのテスト
15)より画像引用
仰臥位でのテスト⁷⁾では、患者に股関節を屈曲させるようにして大腿を胸に近づけてもらい検査者は抵抗をかけます(図26)。

図26 仰臥位でのテスト
15)より画像引用
疼痛誘発で陽性と判断します。
腸腰筋試験が陽性となる病態には、盲腸後部に膿瘍を形成した虫垂炎や憩室炎、大腸癌、腸腰筋膿瘍、腸腰筋血腫、化膿性脊椎炎などがある⁷⁾とされます。
閉鎖筋試験
閉鎖筋試験⁷⁾では、患側の股関節と膝関節を90°に固定したまま股関節を内旋させます(図27)。

図27 閉鎖筋試験
15)より画像引用
疼痛誘発で陽性と判断します。陽性の場合は、虫垂炎や腹膜の炎症が疑われます⁷⁾。
参考・引用文献一覧
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