臨床で腸腰靭帯を評価できていますか?
腸腰靭帯の存在は知っているけど、いまいちその役割を掴みきれていないという方も多いのではないでしょうか?
その原因のひとつとして、解剖学が曖昧という点が挙げられると思います。解剖学書によって表記の仕方や腸腰靭帯を指し示す部位の範囲が異なります。
今回は、この腸腰靭帯について少し細かく追求していきたいと思います。
腸腰靭帯の解剖学
腸腰靱帯の解剖図
腸腰靭帯は、もっとも細かく記載された文献では5つの部位に分けられます1)。
・前腸腰靭帯
・上腸腰靭帯
・後腸腰靭帯
・下腸腰靭帯
・垂直腸腰靭帯
腸腰靱帯の解剖図
1)より画像引用一部改変
腸腰靱帯の起始停止
腸腰靭帯の起始停止1)
起始 |
停止 |
|
前腸腰靭帯 | L5横突起(内側端は椎体まで)の前下縁 |
腸骨 |
上腸腰靭帯 | 腰方形筋筋膜 |
上方:L5横突起前上方縁 |
後腸腰靭帯 |
L5横突起の先端と後縁 |
腰方形筋の起始部(腸骨後方) |
下腸腰靭帯 |
L5横突起の下縁 |
腸骨窩の上部と後方部分 |
垂直腸腰靭帯 | L5横突起の前下縁 |
腸恥骨線の後端 |
腸腰靭帯の前方には腸骨筋の内側、後方には腰方形筋が付着し、腸腰靭帯の張力をコントロールに関与しています。
上腸腰靭帯は、その存在を否定されてもいます2)。明らかに腰方形筋の前方の筋膜であり、靭帯とは言えないと考えられています。
垂直腸腰靭帯は、L5の腹側枝が骨盤内に入るトンネルの外側縁を形成します。
腸腰靱帯の神経支配
腸腰靱帯は、大腿神経、L2~L3の前枝、L3~S3の後枝による神経支配を受けます3)。
腸腰靭帯の運動学と役割
腸腰靭帯が制御する関節運動3)
第5腰椎の仙骨に対する前方への滑りを制動
第5腰椎の回旋、前後屈、対側への側屈を制動
第5腰椎の運動に伴う腸腰靱帯の緊張変化
3)よりが画像引用一部改変
腸腰靱帯の役割
・腸腰靱帯は、仙腸関節の安定性に寄与しています5)。
・腸腰靱帯のventral band(おそらく前腸腰靱帯)の切離で仙腸関節の不安定性は有意に増加し、dorsal band(おそらく後仙腸靱帯)、sacroliac part(SIPIL)の切離では優位な不安定性は認められなかった6)と報告されています。
腸腰靱帯のventral band、dorsal band、sacroiliac partの解剖図
・腸腰靱帯の拘縮は、L5/S1の可動性を制限し、多裂筋と同様に骨盤の後傾を妨げる要因となります3)。
カパンジー機能解剖学に記載される腸腰靱帯
『カパンジー機能解剖学Ⅲ 脊椎・体幹・頭部 原著第7版』に記載される腸腰靱帯は、繊維の分け方が上述と異なります。
カパンジー機能解剖学では、腸腰靱帯は上方繊維束と下方繊維束に分けられ表記されています。
カパンジー機能解剖学に記載される腸腰靱帯の解剖図
4)より画像引用一部改変
側屈時は、体側の腸腰靱帯は仙骨に対する第4腰椎の側屈を8°に制限します。
屈曲時は、上方繊維束が緊張し、下方繊維束が弛緩します。
伸展時は、下方繊維束が緊張し、上方繊維束が弛緩します。
まとめ
・腸腰靱帯は、複数存在する腰椎と腸骨を繋ぐ靱帯の総称。
・腸腰靱帯は、主に第5腰椎の前方滑りと対側の側屈運動を制動し、屈伸の制動も担う。
・腸腰靱帯は仙腸関節の安定性に寄与する。
いかがでしょうか?
今回は、書籍によって異なる腸腰靱帯の表記をできるだけそのまま(呼称を変えず)記載しました。
靱帯の数や走行は個体差もあるのかもしれません。
参考となりましたら幸いです。
参考・引用文献
1)齋藤昭彦:腰椎・骨盤領域の臨床解剖学臨床解剖学 腰痛の評価・治療の科学的根拠 原著第4版,エルゼビア・ジャパン株式会社,2008.
2)HANSON, Patrick; SONESSON, Bertil. The anatomy of the iliolumbar ligament. Archives of physical medicine and rehabilitation, 1994, 75.11: 1245-1246.
3)熊谷匡晃:股関節拘縮の評価と運動療法 第1版.株式会社運動と医学の出版社,2019.
4)A.I.KAPANDJI:カパンジー機能解剖学Ⅲ 原著第7版.医歯薬出版株式会社,2019.
5)林典雄:関節機能解剖学に基づく整形外科運動療法ナビゲーション 上肢・体幹 第2版.株式会社メディカルビュー社,2014.
6)POOL-GOUDZWAARD, Annelies, et al. The iliolumbar ligament: its influence on stability of the sacroiliac joint. Clinical Biomechanics, 2003, 18.2: 99-105.
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