股関節の筋肉の起始停止・作用・支配神経

股関節の筋肉(触診あり)

大腰筋

起始:第12胸椎~第5腰椎の椎体側面と椎間板
停止:大腿骨小転子
作用:股関節屈曲、脊柱の側方への側屈、座位における体幹位置のバランス保持、両側の収縮で背臥位から状態を起こす
支配神経:大腿神経、腰神経叢から直接の筋枝

大腰筋は、体幹と下肢を結ぶ人体唯一の筋肉¹⁾です。大腰筋の作用は、股関節屈曲が主であり運動の20.8%²⁾寄与しています。

腸骨筋

起始:腸骨窩
停止:大腿骨小転子
作用:股関節の屈曲
支配神経:大腿神経

腸骨筋は、筋電図では股関節屈曲運動や座位での骨盤前傾運動で筋活動を認めます²⁾。

小腰筋

起始:第12胸椎~第1腰椎の椎骨縁と椎間板
停止:恥骨筋線、腸恥隆起
作用:骨盤の脊柱方向への屈曲
支配神経:第1腰神経の前枝

小腰筋が確認できるのは、約60~65%の人のみ³⁾とされています。筋腹は筋肉全体の近位35~40%のみであり、より遠位に非常に長い腱が腸腰筋遠位部と腸骨筋膜に付着します。

大殿筋

起始:仙骨と尾骨の後面、後殿筋線より後方の腸骨、胸腰筋膜、仙結節靭帯
停止:上部繊維:腸脛靭帯、下部繊維:殿筋粗面
作用:筋全体:股関節の伸展と外旋、上部繊維:股関節の外転、下部繊維:股関節の内転
支配神経:下殿神経

歩行においては、大殿筋の下部繊維が踵接地の直前に先行して活動し、足底接地前に筋活動のピークを迎えます。一方で、大殿筋上部線維は踵接地後より活動しはじめ、立脚中期あたりで筋活動が最大となり、その後の踵離地に向けて漸減していきます⁴⁾⁵⁾。

中殿筋

起始:前殿筋線と後殿筋線との間の腸骨の外側面
停止:大腿骨大転子の外側面
作用:筋全体:股関節の外転、前部繊維:股関節の屈曲と内旋、後部繊維:股関節の伸展と外旋
支配神経:上殿神経

中殿筋筋力低下のケースでは、トレンデレンブルグ徴候(片脚立位で反対側の骨盤が下制する現象)やデュシェンヌ歩行(立脚時に体幹を同側へ傾けてする歩行)がみられます⁶⁾。

小殿筋

起始:前殿筋線と後殿筋線との間の腸骨の外側面
停止:大腿骨大転子の前面
作用:筋全体:股関節の外転、前部繊維:股関節の屈曲と内旋、後部繊維:股関節の伸展と外旋
支配神経:上殿神経

中殿筋の後部線維と小殿筋は、収縮することで大腿骨頭を関節窩に押し付ける方向に作用すると報告⁷⁾されています。

大腿筋膜張筋

起始:上前腸骨棘と腸骨稜の前部
停止:腸脛靱帯
作用:股関節の外転と内旋および屈曲、膝関節の伸展位保持の補助
支配神経:上殿神経

片脚立位においては、股関節中間位に比べて、股関節内転、伸展、外旋位では腸徑靱帯の張力が増加する⁸⁾と報告されています。

梨状筋

起始:第2~4仙骨の前面
停止:大腿骨大転子の上縁
作用:股関節の外旋と外転および伸展
支配神経:仙骨神経叢からの直接の筋枝

梨状筋は股関節屈曲角度の増大に伴い徐々に外旋モーメントが低下し、股関節屈曲約60°では回旋作用がなくなります。さらに、股関節屈曲約60°以降では回旋作用が逆転し、股関節内旋作用を有します²⁾。

内閉鎖筋

起始:閉鎖膜内側面と閉鎖孔外周の内側面
停止:大腿骨大転子の内側面
作用:股関節の外旋と伸展および内転、股関節屈曲位での外転
支配神経:仙骨神経叢からの直接の筋枝

安静状態から股関節伸展や外旋の等尺性収縮を徐々に行おうとすると、多くの場合に大殿筋や梨状筋、大腿方形筋よりも内閉鎖筋が先に収縮する傾向にある⁹⁾と報告されています。

下双子筋

起始:坐骨結節
停止:大腿骨大転子の内側面
作用:股関節の外旋と伸展、股関節屈曲位での外転
支配神経:仙骨神経叢からの直接の筋枝

上双子筋

起始:坐骨棘の外側面
停止:大腿骨の転子の内側面
作用:股関節の外旋と伸展、股関節屈曲位での外転
支配神経:仙骨神経叢からの直接の筋枝

大腿方形筋

起始:坐骨結節外側緣
停止:大腿骨転子間稜
作用:股関節の外旋と内転
支配神経:仙骨神経叢からの直接の筋枝

大腿方形筋は、歩行やランニングにおける初期(0~20%)に高い筋活動が認められます¹⁰⁾。

参考・引用文献一覧
1)治郎丸卓三. 歩行と走行に着目した腸腰筋の役割 (特集 Inner & Intrinsic Muscles: 筋による関節の安定化, 姿勢調整機能を探る). 理学療法ジャーナル, 2021, 55.6: 666-671.
2)市橋則明:身体運動学 関節の制御機構と筋機能.株式会社メジカルビュー社,2019.
3)NEUMANN, Donald A.: 筋骨格系のキネシオロジー 原著第3版. 医歯薬出版, 2018.
4)伊藤陸; 藤本将志; 鈴木俊明. 基本動作における大殿筋上部線維と下部線維の筋活動について. 関西理学療法, 2017, 17: 33-40.
5)月城慶一ら:観察による歩行分析 第1版.株式会社医学書院,2013.
6)林典雄:運動療法のための機能解剖学的触診技術 下肢・体幹 改訂第2版.株式会社メジカルビュー社,2012.
7)KUMAGAI, Masaru, et al. Functional evaluation of hip abductor muscles with use of magnetic resonance imaging. Journal of Orthopaedic Research, 1997, 15.6: 888-893.
8)Tateuchi, Hiroshige, Sakiko Shiratori, and Noriaki Ichihashi. "The effect of three-dimensional postural change on shear elastic modulus of the iliotibial band." Journal of Electromyography and Kinesiology 28 (2016): 137-142.
9)Hodges, Paul W., Linda McLean, and Joanne Hodder. "Insight into the function of the obturator internus muscle in humans: observations with development and validation of an electromyography recording technique." Journal of Electromyography and Kinesiology 24.4 (2014): 489-496.
10)Semciw, Adam I., et al. "Quadratus femoris: An EMG investigation during walking and running." Journal of Biomechanics 48.12 (2015): 3433-3439.
11)H.Netter:ネッター解剖学アトラス 原著第7版.株式会社南江堂,2022.
12)坂井建雄,松村讓兒(監訳):プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論 / 運動器系 第 3 版,医学 書院,東京,2016.
13)F.H.マティーニ,他:カラー人体解剖学 構造と機能:ミクロからマクロまで.西村書店,2003.