肩関節および上腕の筋肉の起始停止・作用・支配神経

肩関節·上腕の筋肉(触診あり)

肩甲挙筋

起始:第1~4頚椎の横突起
停止:肩甲骨の上角から肩甲棘までの内側縁
作用:肩甲骨の上内方への挙上、下角の内方への回転
支配神経:肩甲背神経

肩甲挙筋は、上肢挙上運動時の拮抗筋¹⁾として挙げられています。

肩甲挙筋の内外側は血行が悪くなりやすい部位と考えられ、またアライメント不良などにより、近スパズムが生じやすく、その状態で肩甲帯の挙上や同側への側屈·回旋により圧縮ストレスを生じやすい²⁾とされています。

大・小菱形筋

起始:第6頚椎~第1胸椎の棘突起(小菱形筋)
   第2~5胸椎棘突起(大菱形筋)
停止:肩甲骨内側縁
作用:肩甲骨の胸壁への固定、肩甲骨の上内方への挙上
支配神経:肩甲背神経

菱形筋と僧帽筋下部繊維は、肩甲骨の挙上と下制という拮抗する作用があり、両筋の力線が組み合わさることで、純粋な後退を生みだす³⁾とされています。

肩甲骨下角部が浮き上がっている症例では、前鋸筋下部繊維と大菱形筋の筋力低下が疑われます²⁾。

僧帽筋

起始:外後頭隆起、項靱带、第7頚椎~第12胸椎の棘突起
停止:鎖骨外側3分の1、肩峰、肩甲棘
作用:肩甲骨の挙上、後方への移動、回転
支配神経:副神経(第XI脳神経)、頸神経叢

僧帽筋と前鋸筋のフォースカップル作用により、肩甲骨上方回旋します。

僧帽筋と前鋸筋の力成分は、肩甲骨上方回旋に加えて肩甲骨の後傾と外旋を補助する³⁾とされています。

小胸筋

起始:第3~5肋骨
停止:肩甲骨の烏口突起
作用:肩甲骨外側角の下垂、肩甲骨の前突
支配神経:内側胸筋神経

小胸筋短縮群では、上肢挙上角度90°以上で肩甲骨内旋角度の増加と後傾角度の減少が認められたと報告され、肩峰と上腕骨頭によるインピンジメントのリスクを増大させる⁴⁾とされています。

大胸筋

起始:鎖骨の胸骨側2分の1、第7肋骨まで胸軟骨
停止:上腕骨の大結節稜
作用:上腕の屈曲、内転、内旋
支配神経:外側胸筋神経、内側胸筋神経

回旋筋腱板訓練時に肩甲下筋の強化を行う際には、大胸筋による大小運動が入りやすいので、注意が必要である⁵⁾とされています。

三角筋

起始:鎖骨の外側3分の1、肩甲棘、肩峰
停止:上腕骨の三角筋粗面
作用:鎖骨部:上腕の屈曲·内旋·内転、肩峰部:上腕の外転、肩甲棘部:上腕の伸展、外旋、内転
支配神経:腋窩神経

三角筋の十分な筋力発揮には、鍵盤筋群による視点形成力の存在が必要不可欠である⁵⁾とされています。

棘下筋

起始:肩甲骨棘下窩と深筋膜
停止:上腕骨大結節
作用:上腕の外旋
支配神経:肩甲上神経

棘下筋全体では、肩関節外転45°から筋活動が増加し90°以上で強く作用します⁵⁾。また肩関節屈曲位よりも外転位のほうが外旋モーメントが大きい⁴⁾です(屈曲位では小円筋の作用が大きい)。

棘上筋

起始:肩甲骨棘上窩
停止:上腕骨大結節
作用:上腕の外転
支配神経:肩甲上神経

肩関節外転運動時の棘上筋と三角筋の相互作用は、動作の安定性に寄与しフォースカップル⁶⁾と呼ばれます。

棘上筋前部繊維は、大結節の最も高位にあり腱性部は長くて太くなっています。上腕骨内旋作用がある⁵⁾とされています。
棘上筋後部繊維は、筋性部であり表層を棘下筋が覆っています⁵⁾。

肩甲下筋

起始:肩甲下窩
停止:上腕骨小結節
作用:上腕の内旋と内転
支配神経:肩甲下神経

肩甲下筋は肩内外旋申間位における挙上角度の変更により上腕骨長軸に対し垂直に近い線維が最も強く肩関節内旋運動に作用します⁷⁾。つまり、内旋作用は挙上角度の増大に伴い上部繊維よりも下部繊維が高くなります。

広背筋

起始:第7胸椎~第5腰椎の棘突起、腸骨稜、第9~12肋骨
停止:上腕骨の小結節稜
作用:上腕の伸展、内転、内旋
支配神経:胸背神経


上肢固定では、骨盤の引き上げ作用(プッシュアップ)が主体となり、肋骨に起始する繊維は胸郭を引き上げ、吸気に関与する⁵⁾とされています。

鎖骨下筋

起始:第1肋骨と肋軟骨の上縁
停止:鎖骨下面の中3分の1、鎖骨の外側3分の1、上腕骨の三角筋粗面
作用:鎖骨の固定と下垂、上腕の屈曲と内旋
支配神経:鎖骨下筋神経、腋窩神経


鎖骨下筋は、鎖骨を下方に引っ張ることにより関節的に肩甲骨の下制に関与する³⁾とされています。

小円筋

起始:肩甲骨外側縁の後面上部3分の2
停止:上腕骨大結節
作用:上腕の外旋
支配神経:腋窩神経

小円筋上部繊維⁵⁾は、腱性部であり、肩甲骨外側縁から起始し大結節下面に停止します。肩関節屈曲90°内旋位からの外旋に作用するとされています。

小円筋下部繊維⁵⁾は、筋性部であり、棘下筋との筋間中隔より起始し上腕骨外科頸に停止します。

前鋸筋

起始:第1~9肋骨
停止:肩甲骨内側縁の肋骨面
作用:肩甲骨を前外方へ引く、肩甲骨の固定
支配神経:長胸神経

前鋸筋麻痺の症状には、肩甲骨周囲の疼痛、肩の脱力感、スポーツ選手におけるパフォーマンスの低下⁸⁾が挙げられています。受傷直後の疼痛は肩甲骨下角に限局しており、灼熱感があると表現されています。身体所見としては、翼状肩甲が挙げられています。

大円筋

起始:肩甲骨下角の後面
停止:上腕骨結節間溝の内側唇
作用:上腕の内転と内旋
支配神経:肩甲下神経(特に下方の枝)


肩甲上腕関節の伸展·内転運動では、広背筋、大円筋、大胸筋が最も長いモーメントアームを有する³⁾とされています。

烏口腕筋

起始:肩甲骨烏口突起
停止:上腕骨の内側面の中3分の1
作用:上腕の屈曲·内転·内旋
支配神経:筋皮神経

結帯動作時に肘から前腕外側に疼痛を訴える例では、烏口腕筋での神経絞扼が疑われる⁵⁾とされています。

上腕二頭筋

起始:長頭: 肩甲骨の関節上結節、短頭: 肩甲骨烏口突起
停止:橈骨粗面、上腕二頭筋腱膜を経て前腕筋膜
作用:肘関節の屈曲と回外、肩関節の屈曲·外転·内旋(長頭)
支配神経:筋皮神経

上腕二頭筋長頭腱による強力な牽引力や骨頭による剪断力によって肩上方関節唇損傷(SLAP損傷)が生じる⁵⁾とされています。

肘筋

起始:上腕骨外側上顆の後面
停止:肘頭外側面
作用:肘関節の伸展の補助
支配神経:橈骨神経

関節包より起始する繊維は肘関節伸展時のインピンジメントを防止します⁵⁾。

上腕筋

起始:上腕骨の前面遠位2分の1
停止:尺骨粗面
作用:肘関節の屈曲
支配神経:筋皮神経と橈骨神経

上腕筋は、三角筋後部線維から連続する外側頭(LH)、三角筋の前方の集合腱に連続する中間頭(IMH)、上腕骨前面から起始する内側頭(MH)の3つの筋束があります。このうち、深層を走る内側頭(MH)は肘関節の前方関節包に付着する⁹⁾と報告されています。

上腕三頭筋

起始:長頭: 肩甲骨の関節下結節、外側頭: 上腕骨後面の上部2分の1、内側頭: 上腕骨後面内側の遠位3分の2
停止:尺骨肘頭の後面
作用:前腕の伸展、上腕の伸展と内転(長頭)
支配神経:橈骨神経

上腕三頭筋の内側頭は、後方関節包に直接付着し、肘関節伸展に伴う後方関節包の挟み込みを防止する役割がある⁵⁾とされています。

参考・引用文献一覧
1)村木孝行:肩関節痛・頸部痛のリハビリテーション.株式会社洋土社,2018.
2)工藤慎太郎;運動器疾患の「なぜ?」がわかる臨床解剖学.株式会社医学書院,2012.
3)Neumann, Donald A:筋骨格系のキネシオロジー 原著 第3版.医歯薬出版株式会社, 2012.
4)市橋則明:身体運動学 関節の制御機構と筋機能.株式会社メディカルビュー社,2017.
5)林典雄:セラピストのための機能解剖学的ストレッチング 上肢.株式会社メディカルビュー社,2016.
6)林典雄:肩関節拘縮の評価と運動療法.株式会社運動と医学の出版社,2013.
7)中山裕子, et al. 肩関節挙上角度と肩甲下筋の筋活動の関係. 理学療法学, 2008, 35.6: 292-298.
8)Martin, Ryan M., and David E. Fish. "Scapular winging: anatomical review, diagnosis, and treatments." Current reviews in musculoskeletal medicine 1 (2008): 1-11.
9)山本昌樹, et al. 上腕筋に関する機能解剖学的考察—上腕筋 3 頭の形態的特徴と機能について—. 臨床解剖研究会記録 No. 13 2013. 2.
10)H.Netter:ネッター解剖学アトラス 原著第7版.株式会社南江堂,2022.
11)坂井建雄,松村讓兒(監訳):プロメテウス解剖学アトラス 解剖学総論 / 運動器系 第 3 版,医学 書院,東京,2016.
12)F.H.マティーニ,他:カラー人体解剖学 構造と機能:ミクロからマクロまで.西村書店,2003.